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「枯れない愛」という花言葉を持つサボテン。砂漠のようなカラカラに乾燥した、水の少ない過酷な環境でもたくましく生きるのはなぜでしょうか? サボテンが行なう光合成の秘密とそれに関連する取り組み「CO2の固定化」を紹介。今回も素朴なギモンに対して、カガクに詳しい「モルおじさん」が解説します。
※ 本記事は、2021年春号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。
イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:川谷恭平(CINRA)
観葉植物として人気のサボテン。乾燥地帯で育つのはなぜ?
在宅時間が増えて家に植物を置く人は増えているのではないでしょうか。「枯れない愛」という花言葉を持つサボテンは、乾燥に強く、少ない水やりで済むことから、初心者でも育てやすい観葉植物として人気です。ところで、なぜサボテンは水の少ない環境でも育つかご存知ですか?今回も、カガクに詳しい「モルおじさん」が詳しく解説します。
サボテンもほかの植物と同様に、光合成により太陽光のエネルギーを利用して、二酸化炭素と水から有機物をつくり出して養分を得ています。しかし、サボテンは降雨量が非常に少ない砂漠のような乾燥地に生息しています。砂漠は光合成に必要な水を得るのが難しいうえ、昼と夜の寒暖差が激しいという特徴から、植物が生息するにはとても過酷な環境です。こうした環境でサボテンはどのように生息しているのでしょうか。
過酷な環境を生き抜く、サボテンの光合成とは?
光合成は植物の成長に欠かせない働きです。植物は葉の表面にある「気孔」を開いて、光合成に必要な二酸化炭素を取り込みます。そして根から吸収した水と反応させ、糖をつくり、反応で出てきた余分な酸素を放出しています。
しかし、砂漠のような高温下で気孔を開くと、光合成に必要な貴重な水を蒸散によって失ってしまいます。 そこで、サボテンは夜と昼の二段階に分けて光合成を行なうことで、過酷な環境に適応しているのです。
気温が低下した夜に気孔を開き、空気中から二酸化炭素を取り込み、いったんそれを「リンゴ酸」という物質に変換して体のなかに蓄えます。そして、日が昇ったあとに、体内に蓄積させたリンゴ酸を分解し、二酸化炭素に戻して、気孔を閉じた状態で光合成を行なうのです。
こうした光合成の仕組みは、砂漠のような水が少ない環境で生息する多肉植物に見られます。
サボテンの「枯れない愛」が地球を救う
現在、「温室効果ガス排出削減」という地球規模の課題に向けて、地域や会社などでさまざまな取り組みが行なわれています。じつは今回解説したサボテンの光合成の仕組みが、二酸化炭素の低減に役立てられるとして環境面から注目されているのです。
そのサボテンの光合成の仕組みを模した技術が「CO2固定技術」です。これは二酸化炭素を有機物として変換することで、大気中の二酸化炭素を減らすことができます。二酸化炭素を有用化学品へと効率的に変換する画期的な触媒の開発が大きなカギを握っているとか。日本の触媒技術は世界でもトップクラスなので、産官学連携によるさらなる展開に注目が高まっています。
持続可能な社会の実現に向け、サボテンの「枯れない愛」に共通するカガクが地球を救う日も、そう遠くはないかもしれません。
モルおじさんのひとこと
サボテンは光合成を二段階に分けて行ない、砂漠のような厳しい環境でも成長しているのでした。じつは光合成のほかにも、サボテンは生き抜くために工夫をしています。何だかわかりますか?
それは、サボテンのトゲに隠されています。サボテンにトゲがあるのはいろいろな理由があり、1つは見てのとおり、動物から身を守るため。トゲがなければ、水分やエサに飢えた動物に狙われてしまいます。サボテンのぷっくりとした多肉はおいしそうに見えるのかもしれませんね。
もう1つは、空気中の水分を吸収するため。砂漠では昼と夜の激しい寒暖差により、霧や朝露が発生します。乾燥地帯で生息する植物にとってはそうしたわずかな水分も貴重なもの。サボテンは霧となった水分をトゲに集めて吸収しているのです。
世界では、サボテンがトゲで水分を集めるのと同じように、空気に含まれる湿気を集め、水を生成するという取り組みが行われています。SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」でも、きれいな水の確保は大きな課題。今回「カガクのギモン」で紹介したような自然界の知恵は、サステナブルな社会を実現するためのヒントになっているんですね。
参考)空気中の水を集める竹の塔
*砂漠に生息する甲虫の形態をヒントにしたアイデアですが、サボテンと同様に表面積を確保して空気中の水分を集めようとの取り組みです。