作品の世界観を壊さずに物語を盛り上げる。監修をして気になった素材は?
MOLp:これまでで『Dr.STONE』に貢献したエピソードはなにかありますか?
くられ先生:『Dr.STONE』の「村編」で、ルリが肺炎を患うのですが、彼女を助けるための治療薬をつくれないかという相談をいただいたんです。そもそも原始世界で回復薬を発明するのは困難ですが、「サルファ剤」という抗菌薬の製造なら科学的にありえなくはないので、原始世界にもある鉄鉱石を利用し、文明復興と同時に完成に向かうつくり方で提案しました。
こういった科学の知識を根拠とともに提案したことで、ネットでも反響がありましたし、ストーリーも盛り上がり、作品への期待値も膨らんだと聞きました。
ツナっち:同じ「村編」で、主人公たちが敵対する司軍との戦いに備えて携帯電話をつくるエピソードもすごいと思ったなあ。
くられ先生:あれは最初、「モールス信号機をつくりたい」っていう話から始まったんですよ。そこでエンジニアの友達に相談したところ、「高周波・高電圧を発生させる『テスラコイル』さえつくってしまえば、電波法は無視するけど実用的な無線電話ができるんじゃない?」という話をしてくれて。それを稲垣先生に伝えたら、じゃあ携帯電話でいきましょうと展開していきました。
MOLp:科学監修の仕事はストーリーの展開にも大きな影響を与えているのですね。作品のなかで、登場人物たちは素材を集め、化学薬品や発明品を生み出していきますが、監修を続けていくなかで「これはすごい」と思った素材はありましたか?
くられ先生:『Dr.STONE』で発明のためにプラスチックが必要になったこともあるんですが、プラスチック素材のひとつである「ポリエチレン」はあらためてすごいなと思いましたね。
MOLp:具体的になにがすごいのでしょう?
くられ先生:現代の生活を支える1つの柱でもあるわけですが、そんな「ポリエチレン」は小さな炭化水素「エチレン」がつながっただけの構造です。
エチレンは2個の炭素原子の二重結合(CH2=CH2)によって結ばれていますが、それらは気体ですから、それが超高温、超高圧の世界では、小さな気体が横の分子とつながりだして、ポリマーとなり、プラスチックとなる。
結果、高分子化合物のポリエチレンが誕生する……。それだけでも、普通に考えてアリエナイレベルの工業レベルなわけです。Dr.STONEの世界に登場させるなら、かなり後半でないとできないでしょうね(笑)