そざいんたびゅー

燃やすには惜しい色があった。
染めの老舗が生んだアップサイクル素材「NUNOUS」

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さまざまな日用品に使われる「布」。とくに衣服は私たちにとってもっとも身近な布といえますが、ファッション業界では長らく、「廃棄布」の問題が取り沙汰されています。

店頭にシミひとつないシャツが並ぶ一方で、生産過程で規格から外れた大量の布が捨てられている現実があります。

こうした課題に真っ向から挑んでいるのが、140年以上の歴史を持つ岡山の老舗染色加工会社・セイショクです。

2012年から廃棄布の利活用に取り組み、数々の試行錯誤を経て誕生したのが、アップサイクル製品「NUNOUS®(ニューノス)」。色も柄も異なる布を何層にも重ねることで生まれる独特の模様や風合いが評価され、ホテルやオフィスなどの内装材として活用されています。

開発の背景にあった想いと課題、そしてNUNOUSの可能性について、代表取締役社長の姫井明さんにうかがいました。

取材・執筆:榎並紀行 写真:浅野杏子 編集:川谷恭平(CINRA)

岡山県岡山市にあるセイショクの岡山工場

捨てられるはずの布がつくる、唯一無二の模様

MOLpチーム(以下、MOLp):セイショク株式会社が開発した「NUNOUS(ニューノス)」とは、どのような素材なのでしょうか?

姫井明さん(以下、姫井):私たちは洋服などの材料になる布(繊維製品)の染色加工を行っていますが、その製造過程では、商品として納品できる基準を満たしていない規格外品の布がどうしても出てきます。

通常であれば廃棄されてしまう、こうした布を活用して生まれたのがNUNOUSです。

セイショクの代表取締役社長・姫井明さん

姫井:色調の異なる数百枚の廃棄布とサトウキビ由来の熱可塑性樹脂フィルムを交互に積み重ね、加熱とプレスによって樹脂を溶かして製作します。完成した素材は、削り出して使うブロック状のものと、加工しやすいシート状のものの2種類。

さまざまな布の色が重なり合い、自然なたわみができることで、個性的な模様が生まれるのが大きな特徴です。木目のように、一つとして同じものはありません。

MOLp:たしかに一つひとつ表情が異なっていて、廃棄布とは思えない美しさや味わいがあります。どのような用途で使われることが多いですか?

姫井:インテリアプロダクトのマテリアルや、壁紙以外の内装建材として、ホテル、オフィス、ショールームなどに用いられることが多いです。

また、自社プロダクトとして、NUNOUSを使ったカードケースや財布、キーリングなども製造・販売しています。

姫井:NUNOUSの面白い使われ方としては、ある大手総合建設会社が都内に新社屋を建設した際に、従業員の方々が使い古した作業着をNUNOUSにアップサイクルして、エレベーターホールのサイン、トイレのピクトサイン、会議室などの室内表示を作りました。

従業員の方が実際に愛用されてきた作業着が、オフィスの随所に活用されているというストーリーも相まって、とても喜んでいただけましたね。

セイショク本社オフィスでも、NUNOUSを用いたトイレのピクトサインを採用
会議室のドアの取手も

MOLp:用途が幅広いですね。そうしたアイデアは、どのように生まれているのでしょうか?

姫井:お客さまの声やご要望からヒントをいただくことが多いですね。サインや照明なども「こういうのできる?」といったご相談がきっかけでした。

私たちは基本的に「NO」とは言わず、まずはやってみることを大切にしています。そんな姿勢でさまざまなことにトライしていくうち、製品化の技術や精度も磨かれていったように感じています。

試作品の想像以上の美しさに、大きな可能性を抱く

MOLp:NUNOUSのプロジェクトは10年以上前にスタートしたそうですね。どのような経緯で開発されたのでしょうか?

姫井:ファッション業界のサプライチェーンは大きく「川上」「川中」「川下」に分けられます。川上の原糸メーカーや、川下のアパレルメーカーは比較的利益を確保している一方、私たちのような川中にあたる繊維加工業は、赤字経営の会社が多いのが現状です。

業界の構造に由来する課題に加え、近年はエネルギーコストの高騰もあり、経営環境は厳しさを増しています。セイショクは145年の歴史があり、多少の赤字でも続けられる体力はありますが、「このままではいけない」という危機感はつねに抱いていました。

そこで2012年、私が社長に就任したタイミングで、同じように課題意識を持つ社内のメンバーを募り、「タスクフォース」を立ち上げました。繊維産業の枠を超えて新たな事業を生み出せないかと、50のアイデアを出し合うなかで、「大量の廃棄布をうまく利活用する」という案が生まれました。これがNUNOUS開発の出発点でした。

MOLp:タスクフォースが立ち上がった当初、すでに現在のNUNOUSのようなアウトプットをイメージされていたのでしょうか?

姫井:いえ、当初はまったく違うものをイメージしていました。最初に思いついたのは、倉庫などで荷物を運ぶ際に使われる「パレット」と呼ばれる荷役台です。1枚の布の強度は弱くても、積層して圧縮すればある程度の荷重に耐えられるものができるのではないかと考えました。

ただ、私たちにはそんなものを作る知見も経験もなかったため、製品の試作や技術支援を行う岡山県工業技術センターに規格外品の布を持ち込んで試作してもらったのが、こちらです。

姫井:いまでは色がだいぶくすんでしまっていますが、想像していたよりもかなりきれいな仕上がりになりました。断面の風合いや触り心地も良く、「これをパレットにするのはもったいない」と感じたんです。

せっかくなら、人々の生活の身近な場所に置いてもらえるようなものにしたい、見た人の気持ちが和らぎ、空間が華やぐものにしたいと考えたとき、「内装材」というアイデアが浮かびました。

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