カガクのギモン

カニをゆでると赤くなるのはなぜ?茶褐色から変化する色素の理由

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素材や化学にまつわる素朴な疑問をひも解く連載「カガクのギモン」。今回は、「カニをゆでると赤くなるのはなぜ?」という疑問にカガクに詳しい「モルおじさん」が答えます。

※ 本記事は、2020年春号として発刊された三井化学の社内報『MCIねっと』内の記事を、ウェブ向けに再編集して掲載しています。

イラスト:ヘロシナキャメラ 編集:吉田真也(CINRA)

カニが赤くなる原理とは? 色素とタンパク質の関係性がポイント

冬の味覚の代表ともいえる、カニ。ゆでても焼いても、とてもおいしいですが、なぜ加熱すると赤くなるのでしょうか。今回はそんなカニの秘密について、カガクに詳しい「モルおじさん」が詳しく解説します。

カガクに詳しい「モルおじさん」

カニやエビなどの甲殻類の殻にはアスタキサンチンという赤色の色素が含まれています。しかし、生のカニではアスタキサンチンとタンパク質が結合している状態のため、殻の色がやや紫がかった茶褐色なのです。

一方、熱湯などで加熱されると殻の中のタンパク質が変性 し、アスタキサンチンがタンパク質から遊離します。するとアスタキサンチン本来の赤色が現れ、ゆでたカニの色はおいしそうな赤に変化。

さらに焼いた場合は、アスタキサンチンが空気中の酸素と結びつき、アスタシンへと変化して一段と鮮やかな赤色になります。これが熱を加えるとカニが赤くなる原理です。

加熱したあとのアスタキサンチンが空気中の酸素と結びつくことで、ゆでたときよりも鮮やかな赤色のアスタシンへと変化する

ちなみに、紅ズワイガニなどは生でも赤色ですが、それは太陽光が届かない水深500~2,500mの深海で生息しているからです。深海では赤色を認識することができないため、捕食者に見つからないよう目立つ赤色を隠す必要がありません。そのため、紅ズワイガニの殻に含まれるアスタキサンチンはタンパク質と結合せず、そのままで存在しています。

つまり、ズワイガニなど水深の浅い海に生息するカニは、目立つ赤色を消すためにアスタキサンチンとタンパク質を結合させて、青灰色にして赤色を薄めているのですね。

食物連鎖でカニが赤い服を着る!? サケやタイとの共通点

カニを赤くするアスタキサンチン。じつは甲殻類の体内で勝手に生成されているわけではありません。自然界でアスタキサンチンを生成できるのは、ヘマトコッカスなどの微細藻類だけです。

この藻類をプランクトンが食べ、さらにそれをカニが食べることで体内にアスタキサンチンが蓄積されていきます。つまり、カニは食物連鎖のなかで赤い服をまとっていくといえるかもしれません。

カニなどの甲殻類だけでなく、サケやタイなども同じ仕組み で赤くなる色素を取り入れます。余談ですが、サケは身の色が赤く見えるため、赤身魚と思われがちですが、じつは白身魚に分類されています。

それはマグロに代表される赤身魚がまったく違う原理で赤くなっているからです。なぜマグロの身は赤いのか……それはまた別のお話で。

モルおじさんのひとこと

ズワイガニ、タラバカニ、毛ガニ……。食欲旺盛なモルおじさんの頭の中がカニで溢れそうになっているので、ここは人を魅了する赤色にまつわる三井化学グループのお話でもひとつ。

みなさんは「紫草(ムラサキ)」という植物をご存じでしょうか。初夏から夏にかけて白色の花を咲かせる山野に自生する多年草です。この根(紫根)にはシコニンという赤紫色の化合物が含まれおり、日本では古くから紫根は染料や化粧品として使用されてきました。しかし、明治時代以降、紫草は国内ではすでに絶滅の危機に瀕していたのです。

三井化学グループでは、この紫草が有するシコニンに注目し、1980年代に生物工学(バイオテクノロジー)により培養細胞を用いてシコニンを生産する技術を開発し、原植物よりも機能性成分の生産効率が高い培養生産系の確立に成功しました。この最先端技術を駆使して製造したシコニンはきれいな赤色をしていることや、脂溶性である性質から1980年代に口紅に採用。その口紅は「BIO口紅」として一世風靡し、当時のヤングを魅了しました。

このほかにも赤色にまつわる三井化学グループのお話はまだあるのですが、カニのことが頭から離れないモルおじさんはこれから北海道へ旅立つので、この続きは北海道三井化学にて!(https://www.hmci.co.jp/