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ゴミから新素材をつくり出す。
素材デザイナー村上結輝が語る廃材の可能性

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取材・執筆:宇治田エリ 写真:fujico 編集:生駒奨(CINRA)

「コーヒーかす」と「廃棄牛乳」でつくるカフェオレのような素材。ユニークな発想が生まれる秘訣とは

MOLp:「バナナレザー」以降も、2021年にコーヒーかすと廃棄牛乳からつくる「カフェオレベース」、2022年には廃棄される石膏ボードを利活用した「resecco」と、新素材を立て続けにリリースされています。

村上:「カフェオレベース」は、大学卒業後に個人で開発した素材です。コーヒー豆は大事に育てられたのち、厳選され丁寧に焙煎されるのですが、お湯を通した瞬間に価値は液体のほうに移り、豆は無価値な「かす」になってしまうんですよね。そこにもったいなさを感じ、かすになってしまったコーヒー豆も含めて「コーヒー体験」として楽しんでもらえる素材ができないかと考えました。

「カフェオレベース」でできたプラントベース。コーヒーをドリップするフィルターをモチーフにデザインされている

村上:ここでも自然素材だけでつくることを大切にし、リサーチと実験を進めていきました。そこで接着剤の役割として着目したのが、給食などから出てくる廃棄牛乳でした。コーヒーかすと廃棄牛乳を混ぜてつくるということは、まさにカフェオレ的な素材。これはおもしろいと思い、使用する豆の焙煎度合いや挽きの細かさによって異なる色味や風合いを引き出しながら素材として「カフェオレベース」を完成させていきました。

でき上がった素材を活用して、ランプやフィルター型のプラントベース、テーブルやスツールなど、美しさを感じられるプロダクトもつくることができました。

「カフェオレベース」でつくられたテーブルとスツール

MOLp:「resecco」は、どのような背景で生まれたのでしょうか?

村上:開発した素材の可能性を広げていくため、東海エリアを拠点に空間プロデュースやイベント企画をしている株式会社On-Coへ執行役員として2022年に入社したのですが、その際に「廃棄される石膏ボードで、なにか新しい素材をつくれないか」とメンバーから依頼を受けたことがきっかけでした。

石膏ボードは建物の内壁・天井に多く使われている建築材料です。防火性と耐火性が高く、ぼくらの住空間には欠かせない内装材です。一方で廃棄の際は、正しく処分するのに手間がかかり、疎まれやすい存在でもある。

だから、廃棄業者や建物の所有者が石膏ボードを不法投棄してしまうという問題が起こります。それを防ぐためには、手間がかかっても正しい処分をすることでメリットが得られるようにすることが重要。そこで石膏ボードを使いさまざまな実験をしてみたところ、マーブル状に着色でき、磨くと艶が出て大理石のような素材になることがわかりました。その特徴を魅力として活かし、意匠性のある内装材、建材などの素材として提案したのが「resecco」です。

廃石膏ボードを再活用してつくられた素材「resecco」

MOLp:硫酸カルシウムでできた石膏ボードは、そのまま土に埋めてしまうと細菌や水などによって硫化水素を発生させるケースもあります(*)が、正しく回収されれば、粉砕して焼くことで再び石膏ボードにすることができる。じつはリサイクルしやすい素材でもありますよね。

村上:そうなんです。ただ、一般的な消費者は石膏ボードを見ることはほとんどありません。ですから、素材として魅力があるものになるように工夫し、より身近なプロダクトに活用できるかたちにしました。それによって、アップサイクルを実現しつつ、多くの人が課題に触れられるようにしたのです。

* 国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201109.html

レザージャケットが夕食の材料に? 新しい消費行動や価値観を生み出す素材づくり

MOLp:食材や建材以外にも、多種多様な「廃材」があります。村上さんがそれらと向き合い、新しい素材を開発するためにどんな視点を大切にしていますか?

村上:もともとスペースデザインが専門なこともあり、空間全体を意識しながら、「住環境でどのように機能するか」といったことを考えています。そうして廃材に向き合っていくと、自然と適材適所が見えてくるし、デザインした素材を小物や家具、建築などに落とし込んでいくときに、説得力のあるものになっていくと思います。

MOLp:現在はどのような新素材を開発しているのでしょうか?

村上:いまは「食べられるレザー素材」の開発に取り組んでいますね。「バナナレザー」や「カフェオレベース」をつくったとき、「自然素材なら、食べられるの?」という質問をされることが多くて。先ほど説明した通り、これらは食材ではなく食品から出る廃材からつくっているので食べることはできませんが、実際に食べられる素材をつくってみてもおもしろいなと思ったのがきっかけです。

そこから、衣食を兼用できるファッション素材を開発することにしました。ぼく自身、「今日は小松菜レザーのジャケットを着て、夕食は小松菜レザージャケットのマリネにしよう」みたいに、同じ素材で衣食をまかなえるのか、実際に生活しながら実証実験してみようと考えています。

開発中の「食べられるレザー」試作品を手にする村上さん

村上:といっても、食べられることはあくまでも物語性であり、「食べても大丈夫なくらいナチュラルである」ことを軸として開発しています。「実際に食べるか食べないか」ではなく「食べられるという選択肢がある状態」が大事。この素材でつくられたアイテムが、世の中に新しい消費行動や価値観が生まれるきっかけになればいいなと思っています。

地域や学生、企業とも連動を。村上さんが追求する素材開発のあり方

MOLp:現在は廃棄問題に対してクリエイティブな手法によるアップサイクルに取り組む「上回転研究所」というコミュニティーも運営されていますが、構想している新しい取り組みはありますか?

村上:そまだまだ準備段階ではありますが、今後は地域と連携したプロジェクトも進めていきたいと考えています。また、ぼくの素材は化学的なアプローチでデザインしているわけではないので、「性能」や「便利さ」はあまり高くありません。そのぶん、生活に根づいて美しさもある「民藝」的な文脈をつくっていけるとも考えていて。現代の消費のあり方に向き合いながら、自分や自分が住む地域の生活に必要なものをつくっていくようなスタイルは続けていきたいですね。

そのほか、社会課題や自分の暮らしに目を向けられるという意味で、「廃材を使った素材づくり」と「ワークショプ」の相性は非常に良いと感じています。この前も、名古屋市にある名城大学の学生さんと一緒にタイル工房へ足を運び、タイルをつくるときに出る釉薬汚泥で何ができるかを実験しながら考えてきました。ぼく自身、学生さんたちにフィードバックしながらとても勉強になったので、ワークショップはこれからも続けていきたいと思っています。

MOLp:ご自身の素材づくりについて「化学的なアプローチではない」というお話がありましたが、MOLpは化学の力で素材やプロダクトに向き合っています。ただ、未来に想像を膨らませ、感性を大切にしながら素材を開発する姿勢には通じるものを感じます。今後、MOLpメンバーと一緒にワークショップを開催するのもおもしろそうですね。

村上:そうですね。ぼくもMOLpの「GoTouch Compounds」などはおもしろいと感じました。一緒にワークショップをすることで、ぼく自身もプラスチックの知識をインプットできたら嬉しいですし、普段研究所にいる方々にとっても刺激になりそうで、相乗効果が生まれる予感がします。これからも、ワークショップを「素材をつくることをただ楽しむ場」にしていくことで、発展性をもたらしていきたいですね。

PROFILE

村上 結輝Murakami Yuki

1998年生まれ、愛知県在住。株式会社On-Co 執行役員、上回転研究所 所長。コロナ禍を機に大量生産大量消費の生活を見直すようになり、大学の卒業制作でバナナ皮からレザー素材を開発。卒業後も廃材を活用した素材開発や資材本来の価値を活かしたプロダクトデザインに注力。2021年にはコーヒーかすと牛乳からつくる「カフェオレベース」、2022年には廃棄石膏を利活用し「resecco」などの新素材をリリース。身近な廃材を美しい素材に生まれ変わらせることで、社会課題を「自分ごと化」するきっかけを創出している。