PROJECT DIARY

新たなつながりと価値が生まれる場所に。
富山県高岡のものづくりイベントが目指すもの

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取材・執筆:榎並紀行 写真:浅野杏子 編集:福田裕介(CINRA)

技術を隠すのではなく「開く」。真逆のアプローチで見えてきた職人の可能性

MOLp:國本さんの目から見て、街の人たちや職人さんたちには、具体的にどんな変化が感じられますか?

國本:目に見える変化があったのは、職人のほうですね。市場街の開催期間中にオープンファクトリー(工場見学)を実施するようになってからは特に、職人たちの考え方や意識、行動が大きく変わったと思います。

職人たちって自分たちの技術を過小評価しているところがあるんです。先代から習った技術をそのままやっているだけで、人に誇れるほどのものじゃないと思っている。でも、オープンファクトリーをやると、外から来た人がその伝統的な技術力の高さに驚くわけです。すると、「自分たちのやっていることって価値があるのかな」と気づき始めるんですよ。

それに、自ら工場を案内して自分たちの仕事について説明することにも意味がある。人に伝えるにはこれまでやってきた仕事をいったん噛み砕く必要があるので、それが結果的に自分の強みや他社との違いを理解することにつながります。

オープンファクトリーをやることが、各工場にとってインナーブランディング(自社の企業理念やブランド価値を社員に伝えて浸透させる活動)のような効果を生むことになったのは、僕らにとっても意外な副産物でしたね。

2025年のオープンファクトリーの様子。高岡市内のものづくり工場など17社を一般開放し、普段は見られない工場の技術を職人のガイド付きで案内した

MOLp:それに、外に開くことによって多くの人に技術を知ってもらい、仕事の依頼につながる可能性もありますよね。

國本:そうなんです。普段は樹脂を扱うMOLpの宮下さんが、金属を扱う高岡の職人たちを面白がってくれてコラボが生まれたように、異業種とのつながりによって新しい方向性が見えることもありますから。

これまで僕たちは、そうやって異業種に技術を見せることをむしろ避けてきました。特に高岡の場合は僕らのような問屋が“専属の職人”を持っていて、基本的には自分たちの製品を中心に作ってもらっている。

言い方は悪いですが「囲っている職人」の技術を公開してしまうと、よそからも同じようなオーダーが来てマネされてしまうじゃないですか。だから、オープンファクトリーなんてもってのほかだったわけです。

でも、そんなことを続けていたって何の発展性もないし、高岡のものづくりが衰退してしまう。これからは職人をスターにして、技術をブランドにして金を稼がないといけない。それが、結果的に伝統工芸や自分たちの商売を守ることにもつながるのではないでしょうか。

もともと縁のない高岡の街に、50回近くも足を運ぶ理由

MOLp:そもそも、國本さんとMOLpが関わるようになったのも不思議な縁でしたね。

國本:宮下さんと出会ったのは、確か2020年の『Creators Meet Takaoka』というイベントでしたよね。

宮下:そうでしたね。クリエイターや地域外の人たちを高岡に呼んで地場産業とコラボさせ、伝統工芸に新たな風を吹かせることを目指したイベントでした。2019年に私はクリエイターでもないのに手を挙げて参加したんです。

初年度(2019年)はただその様子をSNSで発信するだけで終わったのですが、2年目はものづくりをすることが決まっていて。「今年もやるので、宮下さんは来ることが決定してます」と招待されたんです(笑)。そこで地場産業側のパートナーだったのが國本さん。それが國本さんやさまざまな職人さんと接点を持ち、後に市場街へとつながるきっかけでしたね。

國本:そのときに初めて、MOLpさんと一緒にものづくりをしました。当時、宮下さんから言われたのは「作品として展示するだけではなく、売れるものを作りましょう」と。商品として世に出して、お客さんに買ってもらわないと価値を評価できないといってくれたのをよく覚えています。

宮下:実際に作ったのが、MOLpが開発した樹脂「NAGORI®」に、高岡の工芸品である漆を塗布したアクセサリーです。漆は一般的に木地に塗ることが多いですが、あえて重めの樹脂に塗ることで、漆の質感と重量感を与えるということを行いました。『MOLpCafé2021』で販売し、製造した分をすべて売り切りました。

三井化学が開発した海のミネラルから生まれた「NAGORI™ 樹脂」と漆を塗布したアクセサリー「EN(縁/円)」と「WA(輪/和)」。漆器くにもとと三井化学MOLpのコラボによって生まれた

宮下:これまでMOLpが作った4つのプロダクトに高岡の職人さんが絡んでいますが、私たちが「こういうものをやりたい」と言ったときに、それを実現するためにいろんな提案をしてくれるのが國本さんのような人たちなんです。「それだったら、こんな職人さんがいますよ」とか、「この技術とこの技術を組み合わせると、面白そうです」といった具合に、たくさんの引き出しを持っている。

先ほど國本さんがおっしゃったように、これからの問屋は職人を囲うのではなく、アイデアを持った人とそれを形にできる技術を持った職人をつなぐ存在になっていくと思うのですが、その先陣を切っているのが國本さん。彼のような人がもっと増えると、高岡や日本のものづくりはもっと面白いことになるんじゃないですかね。

MOLp:そんな出会い以降、宮下さんは高岡の「沼」にハマっていったということでしたが、特にどんな点に魅力を感じましたか?

宮下:まずは高岡のものづくりの成り立ちみたいなところが、めちゃくちゃ面白いなと感じました。高岡はいまから約400年前に加賀藩の二代目当主である前田利長が開いた街なのですが、利長は城を建て、その衛星都市を活性化させるために高岡の金屋町というエリアに7人の鋳物師(いもじ)を連れてくるんです。

市場街の会場の一つにもなった金屋町は、伝統的建造物群保存地区に指定されており、千本格子の家並みが残る

宮下:ところが、その6年後に江戸幕府から一国一城令が発令されて高岡城は廃城になり、城下町の行く末も危ぶまれるんですが、今度は三代目当主の前田利常が商業を強化して街を立て直していく。そして、利長が招いた鋳物師によって鋳物産業が大きく発展していく……っていう、この歴史と文化が紐づいた背景に、ぐっと心を掴まれましたね。

國本:地元の人でもないのに、これをすらすら言えるのがすごい(笑)。高岡愛を感じます。

宮下:もちろん歴史だけじゃなくて高岡の街自体を好きになったし、富山湾のお魚がおいしい! あとは何と言っても「人」ですよね。高岡と、それを取り巻く人たちがとにかく魅力的なんです。会いたい人たちに会いに来るうちに、気づいたらもう50回近くは高岡に足を運んでいますね。

市場街の『MOLpCafé』に展示した作品の数々を、来場者の方々も興味津々で楽しんでいた

ものづくりを軸に、高岡の街全体を活性化させたい

MOLp:コロナ禍で一時期縮小したとはいえ、近年は来場者数も増え続け、新たな出会いやコラボも生まれ、順調に育ってきているように思います。現状の市場街の評価と、今後の目標を教えてください。

國本:おっしゃるように、年々注目度は高まっていますし、「365日を市場街に」というテーマも少しずつ叶えられつつあるのかなと思います。ただ、まだまだ改善の余地はありますし、もっと自分ごととして関わってくれる人を増やしていかなければ、いずれイベント自体が終息してしまうでしょう。

今後の方向性については実行委員のメンバーたちや職人たち、行政、地元企業や街の人たちと議論しているところですが、具体的に考えていることもあるので、なるべく早く形にしていきたいですね。

そして、最終的な目標はこちらから商品を売りに行くのではなく、お客さんの方がわざわざ買いに来てくれるくらい、高岡を魅力的な場所にすること。そして、街のホテルに泊まってゆっくり観光をして、地元の飲食店で郷土料理を食べてもらう。ものづくりを軸に、街全体が潤うようなところまで持っていきたいと思っています。

PROFILE

國本 耕太郎Kotaro Kunimoto

明治42年創業の高岡漆器の産地問屋「漆器くにもと」の四代目。二輪車整備士として働いた後、30歳で家業の「漆器くにもと」に入社。高岡・北陸の工芸の技を活かした製品の企画・製造・卸売・小売を通して、「つくりたい人」と「作り手」と「使う人」をつなぐ、ものづくりコーディネーターとしても活動。伝統工芸とアウトドアを融合したブランド「artisan933」の共同設立者も務める。「高岡クラフト市場街」には2012年の第1回から携わり、2015年から実行委員会の委員長を務めている。

PROFILE

宮下 友孝Tomotaka Miyashita

三井化学コーポレートコミュニケーション部広報グループ課長。青山学院大学理工学研究科化学専攻を修了後、2002年に三井化学に入社。工場スタッフ、R&D、生産管理、品質管理、RC、営業など多岐にわたる業務に従事。2015年、社内の研究者たちによる組織横断的な有志活動「MOLp」を立ち上げ、現在も運営を行う。また、独自に国道8号線沿い(新潟~京都)の地域の地場産業と共創活動を行っている。