PROJECT DIARY

サステナビリティの「次」を探して。『ミラノサローネ』で見つけた素材の新しい価値

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『ミラノサローネ2025』。世界最高峰の素材、空間、アイデアが集まるこの場所で、MOLpは初めての出展を果たしました。各メンバーが街を歩き、展示に触れ、未来のものづくりを見つめ直した6日間。その気づきは寄稿記事として届けられました。

今回は、その「あと」の話。社内のレポート発表会を経て、MOLpメンバーが再び集い、言葉にしきれなかった視点を座談会で深めました。

素材の多様性、サステナビリティの次の価値、プラスチックの可能性──世界最大級のデザインの祭典から見えてきた、「素材」の未来とは? 対話を通じて、MOLpの次の挑戦が浮かび上がります。

取材・執筆:宇治田エリ 編集:川谷恭平(CINRA)

左からMOLpメンバーの瀬田蒼さん、泉谷留美さん、奈木沙織さん、後藤孝明さん

ミラノサローネで見えた「世界の素材観」

―今回ミラノサローネに参加して、「素材」に対する世界の視点にどのような気づきがありましたか。

泉谷留美(以下、泉谷):バイオマスプラスチックをはじめ、エコマテリアルを使うことは数年前からミラノサローネでは当たり前になっていると聞いていましたが、予想以上に多様な意見があり、日本とのギャップを感じました。また、素材の選び方には予想以上の多様性があることに気がつきました。

たとえば、プラスチックを「絶対に使わない」というデザイナーもいれば、「プラスチックのほうがリサイクルしやすいから、その仕組みづくりが重要」という大手企業の方もいて。

エコマテリアルが「選ばれて当然」というよりも、「なぜそれを選んだのか」という背景や理由が問われていたのが印象的でした。同時に、素材を提供する側も、相手に合わせてアピールするのではなく、自分たちの価値観を素材選定に込め、それに相手がどう共鳴するかという姿勢でアプローチしていると感じました。

来場者に「STABiO® SLOW VASE TECH」の説明をする泉谷さん

―サステナビリティが当たり前となり、たくさんの素材であふれているいま、素材そのものや素材づくりに求められていることはなんだと思いますか?

奈木沙織(以下、奈木):ミラノサローネはデザイン性の高いプロダクトが集まる場だからこそ、スペックや価格といった表面的な比較はほとんど話題になりませんでした。それよりも、この素材がどんな表現や体験を生み出すのか、なぜこの素材を選びたいと思えるのか、という共感できるストーリーを持っていることが、素材に求められていると感じました。

サステナビリティはもはや特別な条件ではなく、前提として認識されており、むしろ素材本来の美しさや特性をどう際立たせ、どんな文化的・感性的価値が込められているかが重要なのかなと。素材づくりに必要なのは、単なる環境対応や性能を追求することではなく、プロダクトになったとき、「この素材が使われているのは、その特性が活かされ、こんな世界観や物語が宿っているからだ」と語れるものが、これから選ばれていく素材なのだと思います。

後藤孝明(以下、後藤):一方で、三井化学と共同で出展した、立体造形技術を核とするデザインブランド「130(ワンサーティ)」のブースでは、屋外展示だったこともあり、建築関係の方から耐久性や汚れの目立たなさといったスペックについての質問がありました。

プラスチックでありながら、高級感のあるプロダクトという点が評価され、高級アウトドアの路線での可能性を見出していただけたからこその質問だったのだと思います。

来場者を案内する後藤さん
「130」はラウンジチェアやソファ、ライトを展示

ビジネス視点で考える、素材開発の次の一手

瀬田蒼(以下、瀬田):素材を社会実装するという観点では、素材を加工し、部品や商品にしてくださるお客さまの視点も重要ですよね。私は自動車材料の開発に携わっていますが、この分野では安全性を保証するために厳格なスペックが求められ、価格や生産効率への目も非常に厳しいものです。

だからこそ、お客さまがどのような基準やプロセスで素材を選ぶのか、どんな課題や組織背景を抱えているのかを深く捉える必要があります。お客さまの視点を理解し、提案を設計することで、素材の文化的・感性的価値といった新たな視点が、本当に「響く」ものになるのだと思います。

GoTouch® THE ZEN」を紹介する瀬田さん

泉谷:皆さんの話を聞いていて、短期間でつくれる「感性に響くものづくり」と、長期間で開発する「高スペックな素材づくり」を両軸で進めるのが良いのかもしれないと感じました。

まずは、デザインや手触りなど、感性に訴えるかたちで素材の魅力を伝える。そしてその裏側では、耐久性や物性に優れた高機能な素材をしっかりと育てていく。そうやって、感性と機能の両面から段階的に価値を高めていくような提案が、これからは求められる気がしています。

流行の移り変わりが早い時代だからこそ、一時的な印象だけでなく、確かな性能も問われる。そんななかで、ハイブリッドなものづくりは、製品の可能性を広げる有効な手段になるのではと感じました。

瀬田:そういう意味では、「NAGORI」の事業展開も参考になりますよね。小さく始めながらもインパクトのある実績を積み重ねることで、いまではパナソニックのシェーバー「ラムダッシュ パームイン」に採用されています。これまでの常識を覆すような提案でも、本質を突いていれば少しずつ認められ、実績を積み重ねることができる。そうすれば知見も増えて素材の価値をもっと高められる。このような進め方は持続可能的な製品開発の一つの有効な手段だと私も思います。

奈木:これまで業界で着目されていなかったり、短所と見なされていたりした特性が、じつは別の業界では求められていて、強みに転じることもある。多様なバックグラウンドや価値観をもつ人々と会い、さまざまな業界に足を踏み入れることで、思いがけない発見やヒントを得られます。そうした出会いをきっかけに多角的な観点から素材開発を進めていけると思いました。

瀬田:ミラノでもたくさんの出会いがありましたね。つねにプロトタイプを懐に忍ばせて、共感できそうな人に出会ったときにすかさず取り出していました。これはわれわれを知ってもらううえでとても有効でしたし、会話も弾みやすくなりました。

自らをオープンにすることで、偶発的なつながりからも何かヒントが得られたり、思いがけず課題と技術がマッチすることができたりする可能性を感じました。

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