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およそ400年前に鋳物産業が興って以来、ものづくりの街として発展してきた富山県高岡市。現在でも鋳物や銅器、漆器などの伝統工芸が盛んです。
そんな高岡のものづくりについて発信する『市場街 』が、2025年9月20日から23日までの4日間にわたり開催されました。
高岡の伝統工芸をPRするだけでなく、地元の職人と外部の人たちとの出会いを生み出してきたこのイベントも、今年で14回目。三井化学のMOLpも今年初めて出展者として参加し、4日間の来場者数はのべ1,300名を数えました。
一過性の町おこしではなく、高岡に新しい価値を生み出し、未来へつなぐためのチャレンジを。その奮闘と今後の可能性について、実行委員長を務める國本耕太郎さんと、MOLpの宮下友孝が語り合います。
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取材・執筆:榎並紀行 写真:浅野杏子 編集:福田裕介(CINRA)
ものと人が行き交い、新しい価値観やつながりが生まれる場
MOLpチーム(以下、MOLp):市場街は2012年にスタートし、2025年で14回目を迎えました。どのようなきっかけで始まった、どんなイベントなのでしょうか?
國本耕太郎さん(以下、國本): 市場街は、ものづくりを軸にしつつ、地元の食や音楽、街並みや歴史、文化を感じてもらう仕掛けも用意していて、「ここでしかできない、高岡の魅力を伝えられるイベントにしたい」という思いで続けてきました。回を重ねるごとに規模も大きくなっています。
高岡市の漆器問屋「漆器くにもと」の四代目である國本耕太郎さん。「市場街」には2012年の第1回から携わり、2015年から実行委員長を務めている
國本: 2025年は街中のあちこちの会場で、40を超えるものづくり系のイベントが開催され、コロナ禍以降ではピークの規模にまで復活してきました。街を巡りながら職人や街の人たちと接して、高岡を体感してもらえるものになっているのではないかと思います。
メイン会場の一つである山町筋エリアでは土蔵造りの建物が並ぶ通りを歩行者天国にして、クラフトやアートに関わる展示と販売が行われた
山町に建つ大型商家を受け継ぎリノベーションした複合商業施設「山町ヴァレー」。市場街開催期間中は総合受付の役割を果たした
会場には鋳物の生型鋳造の技術を体験できるワークショップも
國本: もともとは『高岡クラフトコンペティション』という、高岡発の工芸品の総合コンペを活性化することがイベント誕生のきっかけ。富山大学教授(当時)の松原博先生と、高岡市にある芸文ギャラリーでキュレーターをしていたデザイナーの羽田純くんが中心となって立ち上げたんです。
私は、当初は家業である漆器問屋の「漆器くにもと 」として関連イベントを担当していたのですが、2年目から実行委員になり、10年ほど前から委員長として運営を任されるようになりました。以来、新しい試みを取り入れつつも、松原先生の思いを引き継いでやってきたつもりです。
國本耕太郎さんが四代目を務める漆器問屋「漆器くにもと」
MOLp 宮下友孝(以下、宮下):「市場街」という名称には、どんな意味が込められているのですか?
MOLpの初期メンバーで、現在事務局も務める宮下友孝
國本: 「ものと人が行き交い、新しい価値観やつながりが生まれる場にしていきたい」という意味が込められています。これは松原先生をはじめとする当時の関係者たちの強い意志の表れ。イベントの規模が拡大しても、この根幹だけは変えずに大事にしてきました。
宮下: 國本さんは高岡生まれ、高岡育ちですよね。ほかの実行委員のメンバーも、やはり高岡出身者が中心なんですか?
國本: じつは高岡出身者は2人だけです。私と、もう一人はオープンファクトリー(工場見学)にも参加している「佐野政製作所 」の佐野秀充くん。彼は私の高校の後輩で、一言で表現すると「人たらし」。オープンファクトリーを始めるときも彼が各工場を取りまとめて、いろんな手配をやってくれました。
富山大学の卒業生で高岡に残ったクリエイターたちも、熱い思いを持ってイベントに関わってくれていますね。ウェブサイトを作ってくれる人、グッズを作ってくれる人、マップを作ってくれる人など、クリエイティブ関連をすべて芸術文化学部の卒業生たちで賄えるのは大きな強みだと思います。
市場街はあくまできっかけ。ここで得た出会いを日々の仕事や生活につなげてほしい
MOLp:もともとは『高岡クラフトコンペティション』を盛り上げるためにスタートした市場街ですが、回を重ねていくなかで目的や中身は変わっていきましたか?
國本: 最初は高岡のものづくりをPRするためのイベントでしかありませんでしたが、少しずつ「新しいつながり、新しい出会いを見つける場」という、松原先生が当初に思い描いていたあり方に近づいてきました。
特に、今回から三井化学さんのMOLpや、レゾナックさん(MOLp宮下が勧誘)が出展してくれていることは本当に大きくて。もともと高岡とは縁のなかった東京の企業が参加してくれることにより、面白いつながり、これまでにない価値が生まれています。
たとえば、MOLpと高岡の職人がコラボした作品は、私たちも気づかなかった伝統工芸の技術の新しい可能性を感じさせてくれるものでした。
市場街に初出展した『MOLpCafé』の会場。高岡市出身の作曲家・室崎琴月の生家を会場に、4日間にわたって作品を展示した
嶋モデリングとコラボし、釘や接着剤を使わずに組み上げる「組木技術」で、欅材とフォトクロミック樹脂を組み合わせた「CAGALIVI 」
漆器くにもと、五箇山和紙の里とコラボし、体温付近で柔らかく、冷やすと硬くなる素材「HUMOFIT®」を使ったワインクーラー「OLIOK 」
佐野政製作所とコラボし、特定の周波数を吸音するパネルと、木目調のホワイトボードが一体化したパーテーション「/OF® IDEA BOARD 」
國本: また、2024年の市場街をきっかけに実行委員の学生メンバーが、MOLpが2025年から始めて行っているインターンシップに選ばれたのも、われわれとしては非常に嬉しいニュースでした。地元の大学生たちにとっても刺激になっているようで、自分もこの場を活かしてMOLpと接点を持ち、インターンシップに参加したいと意欲を見せるメンバーも多いです。
宮下: ちなみに2025年のインターンシップは三井化学ではなく、あくまでMOLpとして採用しています。MOLpは会社の「部活動的組織」という位置付けなので、「部活がインターンをとる」っていう方が、参加する学生が自由に動けていろんなことを経験してもらえますから。2025年は東京と高岡から合計2名の学生がインターンシップで活躍してもらっています。
國本: いや、ありがたいですね。そうやって、地元の学生や職人たちが「こんな世界もあるんだ」という気づきを得られるきっかけを生むことが、市場街の大きな役割の一つだと考えているので。
僕らは「365日を市場街に」というテーマを掲げているのですが、イベントが開催される4日間は、あくまで何かのきっかけや出会いを見つける場。そこで得たものを日々の仕事や生活、将来の活動に落とし込んでいってほしいと思っているんです。
MOLpのメンバーがホスト役になり、来場する地元の人たちに作品を紹介しながら交流を楽しんだ
宮下: 外部から来た僕らは僕らで、この場所に魅力を感じているんですよ。一度訪れると高岡の「沼」にハマる人がたくさんいて、ハマった人同士が仲良くなる。で、詳しく話を聞いてみると建築家だったり、ユニークな活動をしているクリエイターだったりすることが本当に多くて。
國本: 面白いのは、宮下さんもそうですけど、外部から高岡に通ってくれている人たちのほうが、地元の僕らより街に詳しかったりするんです。知る人ぞ知るようなおいしいお店を発掘していたり、僕らも気づかなかった高岡の魅力を教えてくれたりする。
外から来た人たちがそうやって高岡のことを好きになり、褒めてくれると地元民や職人も嬉しいじゃないですか。僕らは当たり前だと思っていた技術や街の風景が、じつは尊いものだと気づくことができる。技術に対する誇りやシビックプライド(地域に対する誇りや愛着)を喚起するという意味でも、すごく良い場になっていると思います。