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好きな形に曲げられる食器、漆器のように見える金属…富山県高岡の職人たちが挑む伝統と革新の両立

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北陸エリア屈指の「ものづくり」の街として知られる富山県高岡市。なかでも400年前から続く鋳物製造はいまも高岡の主要産業であり、市内には高い技術力を持つ職人たちの工房・工場が点在しています。

しかし、需要の縮小や後継者の不足により、伝統の継承は危機に瀕しています。それでも、職人たちはあきらめません。単に伝統を守るだけでなく、いや、伝統を守るためにこそ、時代に合わせて需要を汲み取り、技術の革新を続けているのです。

そんななか、2025年9月20日から23日までの4日間にわたり開催された、高岡のものづくりを発信するイベント「市場街」において、市内17社の工場によるオープンファクトリー(工場見学)が実施されました。今回は、そのうち5社をめぐるツアーの様子をレポート。変化を続け、未来を拓こうとする職人たちの矜持と底力をお伝えします。

取材・執筆:榎並紀行 写真:浅野杏子 編集:福田裕介(CINRA)

二宮金次郎像から10メートル超えの仏像まで作る鋳造会社の強みとは?

はじめに訪れたのは「平和合金」。明治39年創業の鋳造会社です。玄関先で出迎えてくれたのは「二宮金次郎像」。高岡市では全国の銅像の約9割が作られていますが、こと二宮金次郎像にかけては平和合金がトップシェアなのだとか。

平和合金の玄関先に置かれた二宮金次郎像。服のしわやひだ、金次郎の表情、背中の「柴(しば)」など繊細なディテールに技術の高さがうかがえる

「平和合金では、神社・寺院の建具や仏具、巨大なアート作品やモニュメントなど、さまざまな鋳物を製作しています。10メートル以上の仏像から数センチ単位の置物まで、どんなサイズの鋳造にも対応できる技術と設備があります」

そう語るのは、同社取締役の藤田恵子さん。長年受け継がれてきた伝統技術で「製造できないものはない」と胸を張ります。

「3Dプリンターを使った設計から原型の製作、鋳造はもちろん、組み立てや溶接、塗装、磨きなどの仕上げ工程までを全て自社工場内で行えるのがうちの強みです」

藤田さんが案内してくれたのは、大型の鋳物を製造する工場。著名な作家のアート作品、世界的企業のモニュメント、誰もが知る人気キャラクターや地方の名士の銅像まで、さまざまな製品・作品が作られています。

これらはいわゆる「一点もの」ですが、砂や粘土、樹脂などで「鋳型」を作り、その隙間に溶かした金属を流し込むという基本的な工程は量産品と変わりません。巨大な作品の場合は複数のパーツに分けて鋳型を作って鋳造し、現場への輸送や施工も行っています。

砂や粘土、樹脂などで作られた「鋳型」。複雑な形状のものになると、100以上の型を組み合わせて造っている
型と型の隙間に金属が溶けて入り込んだバリ(余計な突起)を、職人が綺麗に仕上げてさらにピカピカにする
大きな作品の場合は複数のパーツに分けて鋳造し、組み立て作業も行う
丁寧に説明してくださる取締役の藤田恵子さん

「デジタル技術を駆使した効率化も進めていますが、クライアントが求める高い水準をクリアするためには職人による手作業もなくすことはできません。最近は職人のなり手が減っている状況もあって、ものづくりの経験がまったくない方も積極的に採用し、イチから技術を習得してもらっています」

自由に手でぐにゃぐにゃ曲げられる食器? その正体は

続いて見学したのは「能作(のうさく)」。大正5年、仏具を製造する工場として創業し、100余年にわたって高岡のものづくりをリードしてきた鋳物メーカーです。錫(すず)や真鍮(しんちゅう)、青銅など美しい金属の質感を生かしたものづくりを続けています。

訪れたのは、2017年に建てられ、ギャラリー、カフェレストラン、ショップが併設された新工場。産業と観光を結びつける必要性を感じていた4代目社長が、産地全体の活性化のためにとオープンした施設です。

「産業観光」をテーマにした複合施設。毎日ガイド付きの工場見学を実施するほか、ギャラリーを一般開放し、カフェや自社製品が並ぶショップも併設する
観光ツアーの立ち寄り先としても人気で、まさに「産業観光」を体現している
エントランスを抜けて正面に現れる「木型」の展示。鋳物製品を生み出す大元になる型で、高岡にある木型屋ごとに色分けがされている

能作は創業100年を超える老舗ですが、伝統的な手法のみに捉われず積極果敢なトライを重ねてきたそう。継承してきた技術に時代ごとの感性を融合し、鋳物という産業に新たな風を吹かせています。

その象徴が、手で曲げられるほど柔らかい金属である錫を100%使用した「好きな形に曲げて使える食器」です。

「通常、鋳物製品は柔らかいと磨きにくいため、他の金属を混ぜて硬くするのが一般的でした。ただ、能作では金属なのに柔らかいというユニークな特性に着目し、20年前に錫100%の曲げられる食器を開発したんです。盛り付ける料理やシーンに合わせ、自由に形を変えてお楽しみいただけます」(ガイド役を務める入社3年目の社員さん)

錫の特性を生かし、好きな形に曲げて使える食器「KAGO」

鋳物場では、木型から実際に金属を流し込むための「砂型」を造形。その砂型に金属を流し込む「鋳造」の作業、砂型から製品を取り出す「型ばらし」の作業が行われています。

溶かす前の錫のインゴット(延べ棒)。写真は1本1.2キログラムほどで6000円相当
錫は金属のなかでも融点が低く、約230℃で溶けるため、コンロで火にかけて溶かし、砂型に流し込んでぐい呑みや片口などの酒器を製造する
こちらは銅と真鍮鋳物の作業場。真鍮の融点は800℃(流し込む際の温度は1000℃)と非常に高いため、電気炉を使って溶かす

続いて案内されたのは、仕上げの工程を行う「仕上げ場」。ここでは鋳物場で鋳造した製品を、職人の手で一つひとつ綺麗に加工していきます。

真鍮の仕上げは、まずバリや突起物を大まかに取り除く「洗い」と呼ばれる作業から。次に、旋盤機を使って表面を「削る」工程へ。

旋盤機を使った削りの作業

最後は職人が手作業で、金属や紙のヤスリを駆使して磨いていきます。0.01ミリ単位を削ることで、真鍮ならではの美しい光沢が引き出されるのです。

削る際に出た金属のカスは、もう一度溶かして再利用している

「能作では砂型の造形から鋳造、研磨までを自社工場内で行っています。ここから先は高岡市内の着色を専門とする職人さんに、綺麗な色や模様をつけていただくという流れですね」

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伝統技術を守るためにこそ、時代に合わせた挑戦が必要

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