PROJECT DIARY

好きな形に曲げられる食器、漆器のように見える金属…富山県高岡の職人たちが挑む伝統と革新の両立

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取材・執筆:榎並紀行 写真:浅野杏子 編集:福田裕介(CINRA)

銅器の需要減少を打開するために生み出した新たな技法って?

3社目の「モメンタムファクトリーOrii」は、昭和25年創業。分業制で成り立つ鋳物産業において、最終工程の「着色」を担う専門企業です。同社では創業以来、主に銅器の着色を担当。仏像、梵鐘、茶道具や美術工芸品など、さまざまな鋳造品の仕上げを手がけてきました。

工房を案内してくれたのは、代表の折井宏司さんです。

「モメンタムファクトリーOrii」代表の折井宏司さん

「混同されがちですが、私たちがやっている『着色』は塗装ではありません。塗料を塗るのではなく、銅や真鍮が持つ腐食性を利用し、薬剤や炎をコントロールして、金属が持つ本来の鮮やかな色彩を発色させる伝統技術です」

まずは銅製品に糠(ぬか)をまぶす。糠は、いわゆる漬け物の糠床に使われるのと同じもの
銅製品に糠床をまぶし、高温で真っ赤になるまで焼き上げる。銅は高温で酸化・変色する性質を持つが、糠のまぶし方によってさまざまな模様ができる
水で糠を洗い流すと、少しずつ色が出てくる。糠に含まれる塩が銅と反応することでも模様が変わってくるため、同じ柄のものは二つとない
その後は薬品を塗って、緑青(ろくしょう)と呼ばれる錆を発色させていく。乾燥と塗布を繰り返すことで徐々に色が濃くなっていく
稲の芯を束ねた「ネゴボウキ」で磨きあげ、金属を焼き付け・染め付けしていく「鉄漿(おはぐろ)」という着色法

モメンタムファクトリーOriiでは長く、こうしたやり方で銅器の着色を行ってきました。しかし、時代とともに高岡銅器の需要は減少。こうした伝統的な着色の仕事はもう長らくビジネスとして成立していないのだとか。そこで、折井さんは「薄い銅板」を使った自社製品に活路を見出し、インテリア、建築、ファッションなどさまざまな分野に展開しています。

「本来、薄い銅板は熱で変形してしまうのですが、薬品の調合などを何度も変えてトライするうちに、1ミリ以下の薄い銅板でも高岡銅器らしい色や風合い、これまでにない面白い色が出せるようになったんです。いまはこの新しい技法を使って、インテリア用品や建築部材、雑貨などのオリジナル製品を作っています」

伝統の技を発展させた独自の色を「Orii Blue」と名付け、さまざまな自社製品を作っている

「また、これからは肝心の需要を作るための取り組みも進めていきます。花瓶などの量産品ではなく、例えば高級ホテルのドアノブなどに伝統的な技法が使われていたら、ちょっとかっこいいじゃないですか。伝統だから残す、のではなく、本当に良いと思ってもらえる人たちに届けていくことで、その価値を未来に残していけたらいいですね」

布地にプリントを施して銅着色を再現したファブリック生地で作られたアパレルも

「着色」と「塗装」の違いって?追求し続ける表現の可能性

オープンファクトリー4件目の「杉本美装」も、最終的な色付けを担う専門企業ですが、ここでは伝統的な着色に加え、塗料を吹き付けて色をつける「塗装」をいち早く取り入れています。

金属の表面を酸化・炭化させる着色に対して、塗装は顔料・樹脂・溶剤を混ぜて作られた塗料を吹きつけ、人工的に色をのせることです。杉本美装では、主にアクリル樹脂を吹き付けた後に170℃の高熱で焼付けを行うことにより、耐候性・耐薬品性に優れた商品に仕上げているといいます。

「うちも、もともとは高岡銅器400年の伝統的技法を用いた仕上げ屋としてスタートしましたが、20年ほど前からアクリル塗装を取り入れています。また、 金属の結晶模様を化学的に露出させる『結晶露出』と呼ばれる技法を確立し、表現の可能性を追求し続けています」とは、代表の杉本和文さん。

「杉本美装」代表の杉本和文さん

金属を「塗る」という新しいアプローチは、モメンタムファクトリーOriiとはまた違った意味で革新的です。杉本さんは「性格が飽きっぽいから、新しいことをやりたくなるだけなんです」と冗談めかしますが、斬新な塗装技術を編み出し続ける遊び心の裏には、高岡発のものづくりを発展させ、より面白いものを作りたいという確かな情熱を感じます。

金属調の塗装を施したガラス製品や、漆器のように見える金属など、オリジナルの塗装技術はユニークなものばかりだ

量産技術を使って一点ものが作れる「吹き分け」の秘密

最後に訪れたのは「般若鋳造所」。今回訪れた5つの工場のなかでは最古となる、1870年創業の老舗鋳物メーカーです。主に手掛けるのは、釜をはじめとした茶道具や鉄瓶、銅器、鉄器など。鉄と銅の両方を扱っている工場は、高岡では珍しいそう。

「うちの特徴的な鋳造技法の一つが『吹き分け』です。真鍮と唐金など2種類の金属を一つの鋳型に流し込む技法で、幻想的な模様を作り出すことができます。流れ方が毎回微妙に異なるため、一つとして同じものはできません。量産の技術を使いながらも、一点ものが作れるんです」(6代目鋳物職人の般若雄治さん)

「般若鋳造所」6代目鋳物職人の般若雄治さん
吹き分けによって鋳造された花瓶や皿。江戸時代や明治時代に使われていた技法を、般若鋳造所の職人が試行錯誤の末に復興させた
高岡銅器の技術を使ったドアオープナーや、砂鉄や真鍮,アルミニウムを使った「鋳物風鈴」なども製作している

そもそも般若鋳造所が鉄を扱い始めたのも、その昔、主力製品だった火鉢が石油ストーブの普及で売れなくなることを見越し、お茶道具の製造にシフトしたことがきっかけ。伝統を重んじつつも、時代ごとに必要とされるものを汲み取る嗅覚と柔軟性。それがなければ、150年以上もの歴史を紡ぐことはできなかったはずです。

暗い工房内でひたすら溶かした金属と向き合う職人たち

「自動車も同じ」MOLpメンバーが職人の姿を見て感じた危機感

伝統と革新。言葉にするのは簡単ですが、今回出会った高岡の職人たちはまさに、その難題に本気で挑んでいました。

扱う素材は違えど、同じくものづくりに携わるMOLpメンバーにとっても大いに刺激になったようです。今年5月からMOLpに参加した入社2年目の若手メンバー花井さんは、自身の業務と重ね合わせ、新たなモチベーションを得られたと語ります。

三井化学入社2年目、今年5月にMOLpに参加したばかりの花井さん

「私たちが扱っている素材だって、いまは売れていたとしても10年後のことはわかりません。私は業務で自動車の部材を扱っていますが、現に自動車の販売台数が下がってきたなかで、『このまま同じことだけを続けていていいのだろうか』という漠然とした危機感もあって。それがMOLpに参加する動機でもありました。

今回お会いした職人さんたちは、危機感を覚えるだけでなく、しっかりと未来を見据えたビジョンを立て、これまでの技術をベースにした試行錯誤を続けてこられたのが印象的です。需要縮小や後継者不足による産業の衰退という大きな課題を抱えながらも、手遅れになる前に動き始めていて、その情熱や行動力には胸が熱くなりました。

もちろん、新しい技術を作るには膨大な時間と労力、コストがかかります。でも、だからこそいますぐに手を打たなきゃいけない。私も、今日から自分にできることを見つけていきたいと思います」