そざいんたびゅー

もし「ゲロ」が生きていたら。
risa taokaが粘土と樹脂で作る、弱さを愛でるためのアート作品

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取材・執筆:中島晴矢 写真:浅野杏子 編集:川谷恭平(CINRA)

ツヤをまとう嘔吐──樹脂コーティングが与える美しさ

MOLp:素材という点では、立体作品はどのようにつくられているんですか?

risa:ベースは伸びるタイプの白い紙粘土です。そこに絵の具を混ぜるんですが、基本的にはどれも3色ほどしか使っていません。

粘土をこねると、絵の具が混ざり合っていろんな色になるんですよ。どんな色が出てくるか、楽しみながらつくっているところもあります。

MOLp:きれいなマーブル状の色が出てますよね。素材に粘土を選んだきっかけは?

risa:昔から粘土をこねるのが大好きで。粘土を触っていると楽しい、その感覚が一番ですね。仕事でデザインや広告をやっていたので、いま自分で制作するなら、「直接手で触って形にできる粘土がいいな」と考えました。

たとえばあそこの棚に並んでるのは、陶芸でつくったテキーラのショットグラスです(笑)。

MOLp:ショットグラスも!(笑)。やっぱり手でつくること自体がお好きなんですね。「嘔吐」も有機的なので、モチーフと素材が合致してると感じます。さらに、最後に樹脂でコーティングしているんですよね。

risa:そうですね。樹脂を使っているのは、自分のなかでツヤっとした質感を出したかったから。作品として世間の人に見てもらうとき、それを「美しいもの」として提示したかったんですよ。

risa:私は、ゲロを汚いと思っていません。何かをいったん飲み込んでみて、でもやっぱり無理だと感じて吐き出してしまったもの、それがゲロなんです。

そこには一度は受け入れようとした「真心」があるし、いわば自分の「思い出」みたいなものでもある。だから、なるべく美しく見せたいんですよね。

ただ、正直にいうと作品自体のチープさがいまの悩みです。写真映えはするんですが、実物のクオリティは「まだまだ」だなと。理想は、自在に伸びて色が混ざり、固まっても生命のような柔らかさが残る素材なので、MOLpさんにはいろいろご相談したいと思ってます(笑)。

「消化不良」が教えてくれた、心と体の密接な関係

MOLp:素材のことであれば、ぜひご協力させてください。ちなみに、制作のためにリサーチやフィールドワークみたいなことはするんですか?

risa:街なかで吐いている人がいたら、じっと観察してますよ(笑)。何を食べていたのか、吐瀉物(としゃぶつ)をじぃっと見たりして。自分が吐いてしまったときも観察のチャンスだと思ってよく見ています。

MOLp:すさまじい探究心ですね! あと、作品によって嘔吐以外のモチーフもあったりするんですか?

risa:ありますよ。熱海の芸術祭『ATAMI ART GRANT 2024』に出品したときには、「下痢」をモチーフにしました。

『窓から見えたもの』(写真提供:risa taoka/撮影:Keisuke Inoue)

risa:熱海は家族の別荘があって、幼少期からよく訪れていたゆかりの深い場所です。制作にあたって古い知人にインタビューしたとき、フレンチレストランのソムリエさんから「小さいころ、うちのお店に来るたび、必ず下痢してたよね」って言われて(笑)。

MOLp:それはまた強烈なエピソードですね。

risa:冷静に考えると、小さな子どもがフレンチのフルコースを食べたら、お腹を下すのも無理はないですよね。そういった親のやや過剰な愛情を受け入れようとして、身体が受け止めきれずにあふれ出てしまったものが、幼少期の私の場合は「下痢」だったんです。

その意味で、「ゲロ」も「下痢」も「消化不良」という点では一緒なんですよ。

MOLp:なるほど、risaさんのモチーフの核にあるのは「消化不良」なんですね。

risa:あと熱海のリサーチで気づいたのは、私の妹はまったくお腹を下していなかったこと。つまり、そもそも私は人より胃腸が弱かったんです。

要するに、嘔吐の夢を見るという精神的な現象には、胃腸が弱いという身体的な特徴が影響を与えていたわけですね。そこから身体性というものを強く意識するようになって。当たり前の話ではあるんですが、心と体は別ものではなく、深く結びついたものなんだと考えるようになりました。

粘菌のようなキャラクターが、ジャンルやマテリアルを横断する

MOLp:そういったプロセスを聞くと、risaさんの作品は生命を持ったキャラクターのようにも見えてきます。

risa:そうですね。ゲロでも下痢でも、さっきまでお腹のなかにあった栄養分が、自分の外に出た瞬間、妙に汚いものに見えてきますよね。

でも、それはまだちょっとだけ自分の一部でもあるはずじゃないですか。そこから「もしゲロが生きていたらどうなるだろう?」「もし私とゲロが喋れたら?」と、ある種のキャラクターみたいに考えるようになりました。

キャラクターとしてのゲロをリサーチしていくなかで出会ったのが、民俗学者であり、生物学者でもある南方熊楠(みなかたくまぐす)です。なかでも彼の「粘菌」の研究に着目しました。

risa:粘菌って、栄養状態によって形が変化する、とんでもなく不思議な生き物なんですよ。その粘菌の生態とゲロには、どこか通じるところがある。

しかも、熊楠さんはめちゃくちゃ酒飲みだったみたいで。気に食わない人がいるとゲロを吐いて追い返したり、自分のゲロを培養して研究してたりしたんですよ(笑)。

MOLp:南方熊楠自身がとんでもないキャラクターですよね(笑)。水木しげるによる伝記漫画『猫楠』でも、ゲロの描写は頻出していました。

risa:そういう破天荒な生き方にシンパシーを感じる部分もあって、熊楠さんの研究をリファレンスにしながら、私のゲロも粘菌のような生き物かもしれないと考えるようになりました。

キャラクターとしてのゲロ、言ってみれば「私だったもの」「かわいいやつ」みたいな感じですかね。

MOLp:そう聞くと、とたんにゲロにも愛着が湧いてきます。いま制作中の作品にはどんなものがありますか?

risa:ちょうど飴細工の職人さんとコラボレーションしていて、「舐めることができるゲロ」を飴で制作しています。

飴は口に含みながら溶けていくので、ある意味でゲロ作品の「正解」の素材かもしれないと思っていて。ただ、オブジェとして保存することが難しいので、いまそれをもとに映像を撮影する準備をしています。

写真提供:risa taoka/撮影:YUTA ITAGAKI(KIENGI)/モデル:杏奈メロディー

MOLp:飴細工とのコラボ、面白そうですね。今後はさらにいろんな素材を試していくのでしょうか?

risa:はい、今後もいろんなマテリアルを扱っていきたいです。また、いろんな人たちと関わっていきたいという気持ちも強くありますね。

アート作品をつくることは、自分の哲学を探究していくことだと思います。だからこそ、別のジャンルで活動していて、独自の哲学を持った人たちとコラボしたいんです。たとえばミュージシャンの方にアー写やジャケ写で使ってもらったりとか、一緒に世界観をつくっていけたら面白いなと考えていますね。

MOLp:ありがとうございます。あらためて「ゲロ」というモチーフが、「消化不良」という心身の状態を出発点にしながら、それを否定するのではなく肯定し、自分自身や他者をケアする存在として立ち上がるというコンセプトがよくわかりました。

risa:これまでお話ししてきたように、受け止めきれなかったものや消化できなかった経験も、形を変えれば、自分の一部として残していけると思っています。

私にとってゲロは、単なる排出物ではなく、一度は受け入れようとした痕跡です。だからこそ、できるだけ美しく提示したい。そんな思いを胸に、これからも自分や周りの人、そして素材を見つめながら、アート作品をつくっていきたいですね。

PROFILE

risa taokaリサ タオカ

1990年、神奈川県生まれ。多摩美術大学から武蔵野美術大学基礎デザイン学科に編入。卒業後は広告会社にてアートディレクターとして働く一方、2020年よりアート制作を開始。現在はアート制作に専念。