取材・執筆:宇治田エリ 写真:佐藤翔 編集:森谷美穂(CINRA)
ジェルで立体はつくれる?ふとした疑問がアートへの道を拓く
MOLp:Nakagawaさんが立体的なネイルアートをするようになったきっかけは何だったのですか?
Nakagawa:まず、ネイル自体を始めたのは2020年、コロナ禍に入った頃のことです。ニューヨークで当時お付き合いしていた彼がネイルアートをやっていたこともあって、ステイホームの時期に僕もジェルネイルを始めました。
Nakagawa:最初はラインストーンやホログラムのパーツを爪に乗せるだけだったけれど、時間があり余っていたので、片手分だけで丸2日かけてアクリル絵の具で絵を描くようになって。それを繰り返すうちにもっといろいろ表現してみたいと考えるようになりました。
あるとき「透明なジェルをビヨーンと伸ばして硬化させたらどうなるんだろう?」と思い、爪楊枝を使って実験してみました。何度か試行錯誤するうちに、触覚のような形ができあがって。見たことのないデザインに、さらに好奇心をそそられましたね。
Instagramより
Nakagawa:しばらく同じように制作しつづけていたのですが、ジェルでつくれる立体にも限界があるというか。もっと複雑な形をつくりたくなって、3Dのネイルづくりに興味を持ちました。彼の家に、3Dプリンターやモデリングのソフトなど、作品をつくるために必要な道具がすでにあったことも、踏み出しやすかった理由です。
じつは以前に彼から「一緒にやろうよ」と誘われたことがあったのですが、パソコンを使って立体的なデジタルモデルをつくるって難しそうじゃないですか。自分だってそんなにパソコンが得意な方じゃないから「やだよ」って断っていたんですけど、気づけば自然とモデリングをやるようになっていましたね(笑)。
MOLp:初めて3Dプリンターでつくった作品はどのようなものでしたか?
Nakagawa:ギザギザとした形をモデリングして稲妻のような塗装をしたものが、初めての3Dプリンターを使った作品です。爪の先に挿しているだけなんですが、見たことのないネイルができてめちゃくちゃ面白いなと思いました。
Instagramより
Nakagawa:それからは毎日夢中でつくっていましたね。思いついたものをすぐ形にできるのがすごく楽しくて、モデリングして、プリントして、塗装して完成させるプロセスを1、2日かけて繰り返し制作を続けていました。
以前、浮き輪ブランドを立ち上げて自分でデザインをしていたのですが、無限につくりたいものが浮かんでも、浮き輪の場合、商品化するとなると在庫を抱える必要があり、必ず売らなきゃいけなかった。だから、せっかく思いついても形にできないことが多かったんです。
ネイルの場合はサイズも小さく、3Dプリンターであれば必要なぶんだけをつくれるので、大量生産する必要もありません。在庫の心配もいらないため、思いついたらすぐ形にでき、トライ&エラーを繰り返せるので、とても魅力的です。
「レジン×3Dプリンター×塗装」で広がるデザインの可能性
MOLp:立体感のある作品は、どのように制作しているのですか?
Nakagawa:まずモデリングをしてから、パーツごとに3Dプリンターで出力をします。出力したパーツのバリ取り作業(不要な突起などを削ること)をしたら、パーツごとに塗装して、それから組み立てるという流れです。
例えば韓国の雑誌『DAZED KOREA』の撮影で使った作品は、12パーツに分けて出力しています。そうしたほうがきれいに塗装できるし、一つひとつのパーツが際立ち、全体としても存在感が出るんです。
俳優・モデルとして活動しており、Nakagawaさんの友人でもある、のせりんが着用。アニメっぽい要素を入れたような衣装から着想を得て、魔法少女感のある思い切ったデザインにした(©のせりん)
MOLp:このネイルにはどのような素材を使用されているのでしょうか。
Nakagawa:透明なレジンを使用しています。光造形の3Dプリンターで出力し、それに塗装しているという感じですね。透明だけど色がついているものは、クリアカラーの塗装を使っていて、グラデーション表現も塗装でやっています。
MOLp:なるほど。一方で刃物のように鋭いこの作品は、インスタグラムで塗装のプロセスも公開されていましたよね。
Nakagawa:これは、最初にシルバー用のプライマー(下塗り接着剤)として真っ黒に塗装して丸1日乾かし、ジェルを塗り重ね、最後にホビー用の塗料を使ってまるで金属のような質感に仕上げています。
塗料は、車用の塗料をつくっているShow Upという会社に協賛いただきました。もともと金属の板を加工する板金屋さんだったので、最初の頃は電話をしまくって塗り方を教えてもらっていましたね。この塗装にはかなりコツがいるんです。
デザインも素材も「ミックス」させて、作品ごとに世界観をつくりあげる
MOLp:Nakagawaさんはレジンという素材を使いながら、塗装や異素材をうまく組み合わせることで、独自の世界観を作品につくり出していますね。
Nakagawa:そうですね。特にスワロフスキーやスタッズなどの異なる素材を組み合わせるのが好きで、作品のアクセントにしたり、ステージの光で反射させたりする効果を狙っています。
一方で、ファーを使った時は主張が強すぎてなかなか思うようにいかず、苦戦しました(笑)。
唯一あった、ファーを用いた作品
MOLp:「こんな素材があったらいいのに」と思うことはありますか?
Nakagawa:小さくて光る素材があったら、より表現の幅が広がるなと思います。いま、電気でピカピカと光るパーツを持っているのですが、電池も入っているので結構大きいんですよ。軽量でもっと小さいものがあれば、存在感のあるネイルアートがつくれるなと。
MOLp:そういう素材があれば、ステージパフォーマンスでも目立ちそうです。MOLpには「フォトクロミック材料SHIRANUI®」という、紫外線で色が変わる素材があります。イカの体みたいに光るのも、儚くていいかもしれないですね。
Nakagawa:たしかにきれいですよね。僕が以前に漁師の仕事をしていたこともあって、海の様子や生き物にインスピレーションを受けることがよくあります。イカって個体によって柄や光り方も微妙に違ったりしますから、それを素材で表現できたら面白いですね。
MOLp:Nakagawaさんは普段、どのように作品のアイデアを考えているのでしょうか。
Nakagawa:じつは、つくっているときはあんまり意識していなくて、モデリングでいろいろいじっているうちに、気づいたら「これいいじゃん」と思うものができあがっていることがわりと多いです。
ただ、自分の好きなものやそのとき頭のなかにある、異なる要素をミックスさせてアウトプットすることは心がけています。この「ミックスさせる」ことがすごく大事で。
例えば、魚のヒレを思い浮かべてアイデアを出したとき、それだけでつくると一目見てわかるというか、「あぁ、魚のヒレね」という感じで新しさがあまりない気がして。そこに何か別のものを融合させることによって、見たことのないようなデザインができあがると思うんです。
MOLp:複数の要素をもとに独創的なデザインを生み出しているんですね。一方で、現在はアメリカで一般の方向けに、サロンワークにも取り組まれていると聞きました。
Nakagawa:やはりネイリストという肩書きなので、もっと基礎を上達させたいと思ってサロンワークを始めました。アーティストやアイドルのパフォーマンスのためにつくる「非日常の作品」も面白いけれど、個人のお客さんに施すネイルも、本人とコミュニケーションをとりながらデザインを決めていく楽しさがあります。自分では考えたこともない要望を受けることもあって、表現の学びにもなっていますね。
ネイルの領域にとどまらず、ワクワクする表現を探求したい
MOLp:ネイル以外にも、ヘッドピースや魔法のステッキ、ボディパーツなどもつくっていますが、今後つくってみたいものはありますか?
K-POPアイドルグループ「IVE」のミュージックビデオで使用したアームパーツとネイル
Nakagawa:最近は身につけるものをつくる3Dのアーティストが増えてきていますよね。僕自身、3D作品は3年近く続けてきたので、今後はランプや置物、壁に掛けるオブジェとか、家具にも挑戦してみたいです。さらに大きな夢でいうと、巨大建造物の制作にもいつか携われたらと構想しています。
MOLp:家具制作となると、使う素材も変わってくると思いますが、どんな素材を使ってみたいですか?
Nakagawa:いまネイルに使っているレジンは、日当たりがいい場所に長期間置いておくと変色してしまいます。部屋に飾るものだったら、ガラスなどの素材のほうがより美しくてちゃんと保存もできそうなので、使ってみたいなと思います。つくるための窯など用意するものも多いので簡単ではないけれど、新しい素材にふれればアイデアも広がっていくと思うので、ぜひ勉強してみたいです。
僕は未知のものやめずらしいものを見たり、触れたりするのが好きで、それを自分の手で生み出すことにすごくワクワクします。なので、これからも夢中になれるような新たな表現を探求していきたいですね。
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東京生まれ。会社員やアパレルなどを経験し、2015年に起業。のち、2019年に漁師に転職。コロナ禍で3Dプリンターを使ったネイリストとして活動を始め、ビョークやバッドバニー、NENE、NewJeans、XGなど国内外のアーティストのネイルやボディパーツの制作を手掛ける。現在はアメリカに拠点を置いて活動中。