取材・執筆:東谷好依 写真:ただ 編集:宇野宙(CINRA)
触れて、書いて、愛着が生まれる
FUMIという印象的な名称は、どのようにして生まれたのでしょうか。
佐藤:私たちとしては、単なる商品名ではなく、筆記具以外のアイテムにも展開していけるブランド名にしたいと考えていました。そのため、ネーミングにはかなり時間をかけ、200案ほど候補を出しましたね。海水由来の素材であることが伝わる名前を条件にし、関係者の意見や私たち自身の思いも踏まえて、最終的に「FUMI(文海/フミ)」に決めました。
中身が見えるパッケージにもこだわりを感じます。
佐藤:中高級筆記具のパッケージは、製品に直接触れられない仕様が一般的です。「透明なケースで覆ってしまった方がいいのでは?」という意見もありました。ただ、FUMIの魅力は実際に触らないと伝わりません。
1本ごとに異なる模様を見比べたり、手に取って質感を確かめたりできることが大切だと考えました。そのため、商品を実際に回して眺めたり、触れたりできるパッケージデザインにこだわりました。
加茂:三井化学本社でFUMIの社内販売会を行っていただいた際も、社員が皆、自分好みの1本を探していました。模様の違いを見比べながら選ぶ楽しさも、これまでの文具にはなかった新しい魅力ですね。
トンボ鉛筆さんから見た、NAGORI®という素材の魅力や、文具に採用するメリットを教えてください。
佐藤:中高級筆記具では、重さや質感が非常に重要です。その点、NAGORI®は素材そのものにそうした魅力が備わっているんですよね。陶器のような質感のある製品化を目指し、その質感を実用的なかたちで実現できたのは、NAGORI®だからこそだと思っています。また、弊社は成形技術には強みがありますが、金属加工を主軸にしているわけではありません。そのため、通常の樹脂成形で加工できることも大きなメリットでした。
今井:これまでも、廃棄物を混ぜ込んだ樹脂など、環境配慮型の素材をいろいろ試してきました。ただ、実際に製品に採用しようとすると、デメリットが大きいケースも少なくありませんでした。その点、NAGORI®はミネラルを含んでいることで比重(素材の密度)の面でも有利ですし、ベースの樹脂がポリオレフィンなので成形もしやすい。ものづくりの観点から見ても、メリットの多い素材でした。
発売後のお客さまの反応はいかがでしょうか。
佐藤:想像以上に好評ですね。2,000〜3,000円クラスのシャープペンシルを購入される方は、文具への関心が非常に高い方が多いのですが、そういった方々からも「今までにない感触だ」というお声をいただいています。
面白いのは、書き味に対する評価です。FUMIは、金属製の筆記具のような「カツカツ」という感覚ではなく、「コツコツ」とした少し柔らかい書き味なんですね。単にデザインを楽しむための商品ではなく、書きやすい筆記具としても評価していただけているのはうれしいなと思います。自分で模様を選んで購入できることも含めて、長く愛着を持って使っていただける商品になったのではないかと感じています。
ユーザーの方に、どのようなシーンでFUMIを使ってほしいですか。
木村:私自身は、クリエイティブな仕事をしている方にプレゼントしたいなと思っています。自分らしさや発想力を大切にする人に、ぜひ使っていただきたいですね。
加茂:進学するときや、新しい学年を迎えるときに、文具を新調すると、気持ちが高まることってありませんでしたか? 当社の社内販売会でも、「子どもへのプレゼントにしたい」という声をたくさん聞きました。そうした人生の節目に寄り添う1本になってくれたらうれしいです。
堀江:過去を振り返ると、私がシャープペンシルを一番使っていたのは学生のころでした。勉強が大変な時期を一緒に過ごした文具って、不思議と長く手元に残るんですよね。FUMIも、誰かにとってそんな特別な1本になってほしいなと思っています。
素材との出会いが、新しい文具を生む
FUMIがこれほど支持されている背景には、文具のトレンドや、ユーザー心理の変化もあるのでしょうか。
今井:そうだと思います。最近は、ツールとしての役割だけでなく、見て、触って、使うこと自体を楽しむ文具が増えてきました。価格帯の高い製品も増えていて、嗜好品としての価値が高まっていると感じています。
佐藤:実際に、1,000〜5,000円の中高級シャープペンシルは小中学生にも人気で、気分やシーンに合わせて使い分けるケースも少なくありません。その背景には、デジタル化の反動もあるのではないかと思っています。中高級シャープペンシルには、数百円のプラスチック製では味わえない触感があります。そんなふうに、手に取ったときの感覚そのものに価値を感じる方が増えているのだと思います。
触感を追求したFUMIは、まさにそうした時代のニーズに応えるプロダクトラインですね。今後、どのように展開していく予定ですか?
佐藤:FUMIは、将来的にはライフスタイルブランドとして育てていきたいと考えています。まずは筆記具のラインナップを拡充していく予定で、現在はボールペンの開発も進めています。その先には、デスク周りの事務用品などにも展開を広げ、FUMIの世界観で統一された製品群を作っていきたいですね。
木村:現在のFUMIは、どちらかというと無彩色を中心とした、マニッシュなカラーリングになっています。もちろんそれもブランドの個性ですが、今後さらに多くの方にこのブランドを知っていただくために、年齢や性別を問わず手に取れるようなカラー展開も考えていきたいと思っています。
FUMIのポスター。よく見ると、NAGORI®と関わりが深いプロダクトが随所に。
三井化学やMOLpの素材で、使ってみたいものはありますか?
佐藤:以前、三井化学さんの共創空間「Creation Palette YAE」で、さまざまな素材を紹介していただく機会がありました。そのなかでもとくに、体温でかたちが変わる「アブソートマー®」や、紫外線に反応して色が変わる「SHIRANUI®」は面白い素材だと感じています。文具の開発では、素材との出会いがアイデアの出発点になることも少なくありません。三井化学さんには多くの素材や知見がありますので、そうした力もお借りしながら、今後も新しい文具づくりに挑戦していきたいですね。
「こんな素材があったら、文具がもっと楽しくなりそう」というアイデアがあればぜひ教えてください。
堀江:個人的には、日記やジャーナリングを続けたくなるような文具があったら面白いなと思います。具体的にどんな素材や製品かまではまだイメージできていないのですが、三日坊主にならずに続けられるようなノートやペンがあったらいいですよね。文具そのものが行動を後押ししてくれるような存在になったら素敵だなと思います。
佐藤:社内では、「過酷な環境に耐えうるアウトドア用品みたいなペンがあったら面白いよね」という話をすることがあります。落としても壊れない、どんな環境でも確実に書ける。そんな究極のタフネス性能を持ったペンですね。実現できるかは別として、もしそこまで突き詰められた製品ができたら、きっと求める人はいるんじゃないかな。そういう極端な発想から、新しい文具の可能性が生まれることもありますから。
※ 掲載内容は2026年5月取材時点の情報です。
2001年、株式会社トンボ鉛筆に入社。ボールペンインクやテープのりの配合設計を担当。2009年より商品企画部門にて、貼る・書くカテゴリーの新商品企画、貼るカテゴリーブランド「PiT」のリブランディングに従事。2025年より商品企画部門の統括を担当。
2019年、株式会社トンボ鉛筆に入社。入社から3年半は中部支店の営業として量販店を担当し、その後商品企画部門に異動。消しゴムの新商品企画担当を経て、現在はボールペンの新商品企画を担当。
1999年、株式会社トンボ鉛筆に入社。修正テープ、テープのりなどの本体設計に従事。2014年より、ボールペン、シャープペンなどの筆記具の開発を担当。
1998年、三井化学株式会社に入社。技術者としてエラストマー素材を中心に研究開発に従事。モビリティ事業分野の営業、事業企画業務を経て、2024年より機能性コンパウンド事業部 新製品開発グループに在籍。素材による新たな価値提案を推進している。
2024年、三井化学株式会社に入社。現在は開発部 複合材料グループに在籍し、NAGORI®やモビリティ向け複合材料の研究開発を担当。材料設計や評価、顧客サポートに従事している。