そざいんたびゅー

プラスチック玩具に取り憑かれた男。
アーティスト杉澤佑輔が語る「おもちゃ愛」

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日々の生活や仕事のなかで「素材」と向き合う人たちの考え方に触れる、連載「そざいんたびゅー」。今回は、プラスチックのおもちゃや日用品を組み合わせ、お面やロボット作品を制作する、アーティストの杉澤佑輔さんに、MOLpメンバーがお話をうかがいます。

「素材はじっくり集め、作品は即興でつくる」という杉澤さん。子どものころから好きだったというおもちゃを収集する視点や、制作スタイルと共通するスケードボードの話、プラスチック素材の魅力をうかがうなかで、アーティスト独自の視点が浮かび上がってきました。

取材・執筆:宇治田エリ 写真:沼田学 編集:川谷恭平(CINRA)

「かっこいいおもちゃが集まってできた作品は最強だし、間違いない」

MOLpチーム(以下、MOLp):おもちゃを使い、お面やロボットなど立体作品を生み出す杉澤さん。そもそもいつからアート制作をしているのでしょうか?

杉澤佑輔(以下、杉澤):中学生のころから、地元の静岡でスケートボードをしていたんですけど、高校卒業を機に「東京でスケボーがしたい」と思って。東京で造形を学べる専門学校への進学を決めて、上京したんです。

スケートボードをしていると、アートやアーティストに触れる機会も多くて、気づけば絵の具を使って絵を描くようになっていました。作品づくりを始めたのもそのころですね。

アーティストの杉澤佑輔さん。1982年静岡県沼津市出身で、現在も沼津市を拠点に活動。14歳からスケートボードをはじめ、 10代のほとんどの時間をスケートボードに費やす。おもちゃ、日用品、路上で拾った物などさまざまな物を用いてお面やロボットなどを制作

杉澤:そうしているうちに、19歳のころ、ひょんなことからテレビ番組のアート系の企画にゲストの1人として出演することになったんです。各ゲストは与えられたテーマに沿って作品制作を行なうというもので、そのときのテーマは「イエス・キリストの誕生を祝った東方の三博士」でした。

堅いテーマだったので、ほかのゲストは宗教画をモチーフにしたまじめな絵を描いていたりしていました。そんななか、自分は「キリストの誕生日であるクリスマスに、子どもにプレゼントするならやっぱりおもちゃでしょ」と思い、プラスチック製のおもちゃを使ってロボットの作品をつくったんです。

MOLp:「マタイによる福音書」に書かれているものですね。そこで東方の三博士は、「黄金」「乳香」「没薬(もつやく)」をイエスに捧げたのですが、じつは乳香も没薬も樹木から採取される樹脂です。

杉澤さんのアイデアは意表を突くものですが、合成樹脂でつくられるプラスチック製のおもちゃを用いて作品をつくるというのは、あながち間違っていないようにも思います。

杉澤:素材の視点から解釈するというのも、面白いですね。でも、そのときはそこまで深く考えていなかったです(笑)。

2021年には地元沼津で個展『憑依一体』を開催(杉澤佑輔さんのInstagramより)

MOLp:そこからなぜ、おもちゃを使った作品をつくり続けようと思ったのでしょうか?

杉澤:「自分がつくりたいものはなんだろう?」と掘り下げたとき、やっぱり自分の琴線に触れるものを扱うことが大切だと気づいたんです。質感や色味にグッとくるもの、それが自分にとってはおもちゃだった。「かっこいいおもちゃが集まってできた作品は最強だし、間違いないでしょ」っていう、言葉にできない納得感があったんですよね。

おもちゃが「素材に使って」と向こうからやってくる

MOLp:普段、作品はどのようにつくっているのでしょうか?

杉澤:まず、素材集めから始まります。自分の場合は、おもちゃや日用品が素材なわけですが、「こういう素材を見つけたい」という明確な目的は、なるべく持たないようにしています。

頭の片隅でほんのり意識する程度で、探していないけれど探している感じ。そうやって日常生活を過ごしていると、気になる素材が向こうからやってくるんですよ。たとえばこういった水鉄砲のおもちゃも、自分には赤い部分が「目」に見えてくるんです。

MOLp:おもちゃ屋さんで素材集めをするのでしょうか?

杉澤:そうです。おもちゃ屋さんのほかに、玩具の問屋、100円ショップもまわり、大人買いしていますね。子どもと公園に遊びに行って、捨てられているものに「これだ」と、ピンときて持って帰ることも。先ほどもお話ししたとおり、素材選びは、意識と偶然の境目に視点を置いて、探しているような感じです。

集めたあとは作品に使うための素材を選ぶのですが、そのときは即興的でありつつも、自分が「かっこいい」と思うものを見極めるタイミングでもあるので、自分の意識が一番反映されている気がします。

MOLp:編集的な視点が入るのですね。

杉澤:そうかもしれません。集めて選ぶ作業は1、2か月程度と、時間もかなりかけていますね。逆につくるときは即興なので、早いです。完成イメージは前もって考えることなく、偶発的にかたちを生み出していきます。

とくにロボットの場合は、お面と違って顔ありきでつくると体のバランスと釣り合わなくなることが多いので、ボディーからつくり始めることが多いですね。

また、ここにあるロボットやお面は、プロテクターや脊髄パッドにビスで固定させてつくっているので、人も装着することができます。動きやすさや機能性はありませんが(笑)。

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