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CEOメッセージ

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新たな三井化学グループの姿と自らのミッション

真のグローバルスペシャリティカンパニーとして、
挑戦し続ける企業文化を作る。

私が社長に就任した2020年の4月は、新型コロナウイルス感染症の拡大が始まったばかりの頃でした。世界的に起こった劇的な変化が、元々会社の変革を進めようとしていた私にとって、この環境変化に対応するための大義名分となり、変革の追い風となったと思っています。2016年に長期経営計画VISION 2025を発表してから現在までの当社グループを振り返ると、発表直後の2017年度から2019年度は、成長領域の営業利益も当初思い描いたようには伸びませんでした。しかし、変革を加速した2020年度以降、業績は上向き、2021年度、2022年度は成長領域におけるコア営業利益が1,000億円を超えました。構造改革を進めてきたベーシック&グリーン・マテリアルズ事業のボラティリティも低下しており、ベーシックケミカル企業のイメージを超えてスペシャリティケミカルの会社へ、いよいよ一歩を踏み出したと言えるでしょう。

このように当社グループの事業改革が実を結び始める中で就任した私の次なるミッションは、企業文化の変革です。長い歴史の中で染みついた文化を変えていくためには、事業の改革以上に時間がかかるのが常です。しかし、ここ数年で当社グループの業績が上向いたことで、社員の間でもよりアグレッシブに挑戦へと向かっていくムードが出てきたことを感じています。また、結果に関わらず社員の挑戦それ自体を評価する表彰制度や、新本社における快適な仕事環境を実現するために社員がタスクフォースを組んでオフィスレイアウトのデザインを行ったプロジェクトなど、「自主・自律・協働」を目指した取り組みの成果も表れ始めています。今後、グループ全体がさまざまなチャレンジを行っていく中で、課題を克服し、あるべき姿に近づいていくことが理想ですが、そのためには、今後逆風が想定される事業環境など、多くの壁を乗り越えていかなくてはなりません。

2022年度の事業環境と業績

逆風の事業環境下を機会と捉え、グループの力を底上げする。

2022年度は、特に下期から中国市場の回復遅れや、半導体不足、原燃料の高騰など、厳しい市場環境となり、前述したように2021年度以降比較的好調だった業績にも影響を及ぼしました。しかし、このような状況でこそ個々の事業の力もクリアに見えてきます。これを機会と捉え、これまでの戦略および投資の成果をしっかりと振り返り、事業ポートフォリオの中身をきちんと分析・評価することで、環境変化に動じず、目標に向かって自信を持って進んでいく企業になっていけると私は考えています。
今後厳しい事業環境が続く中で、地力のある事業は一定程度の水準を維持する一方、2021年度以降の好業績に隠れていた弱みが明らかになる事業もあるでしょう。環境変化によって事業ポートフォリオ内の事業の位置づけが変わることもあり得ます。再構築に位置付けられたからと言って諦めるのではなく、どうやったらそこから脱却できるか考え挑戦して欲しいと私は伝えています。チームスポーツで言えば、全員がベンチ入りできるわけではなく、2軍に落ちる人もいるわけです。2軍になったからと言って直ぐに引退するわけではないので、諦めずに一生懸命1軍そしてスタメンを目指して頑張るでしょう。それと同じで直ちに撤退するわけではなく、また、一方で成長投資事業と位置付けられても競合との競争に負ければ、再構築になってしまうこともあり入れ替えはありえるので、各事業が互いに切磋琢磨しながらROICやカーボンフットプリントといった指標も意識しながら課題を特定し、克服していくことで、事業ポートフォリオ全体が底上げされていくと私は考えています。もちろん、簡単な道のりではありません。社員にとってもプレッシャーのかかるフェーズとなるでしょう。しかしスポーツと同じく、身体を壊さない程度に大きな負荷をかけたトレーニングを経て初めて筋力や身体能力が身につくように、これを乗り越えることで、社員のマインドもよりタフで真にポジティブなものになっていけると信じています。これは事業環境の厳しい今だからこそできる、VISION 2030実現に向けた重要なステップです。

未来社会を見据えたVISION 2030戦略

社内外連携と技術を活かし、ビジネスモデル転換を加速する。

今後顕在化してくるであろう課題を解決するための道しるべとなるのが、現在掲げているソリューション型ビジネスモデルの構築や、サーキュラーエコノミーへの対応強化といった基本戦略です。これらの実現のためには、企業間の連携を通じたエコシステムの構築が必要不可欠です。例えば、現在進めている、コンビナートにおける複数社の連携によるクラッカーのトランスフォーメーションによるグリーン化推進の取り組みはその最たる例です。CO2排出量の削減やグリーン化は、今やグローバルに共通した課題ですから、化学産業の中でこのように協力体制を強めていくのは自然な動きと言えるでしょう。また、ソリューション型ビジネスモデルの構築にあたっては、新事業の創出・育成コンセプトとして、医・食・住の3分野における社会課題をターゲットに据え、研究機関やスタートアップなどとデジタル技術を活用した共創の場を作ろうという取り組みを進めています。
ビジネスモデル転換に活かすべき強みであり、不可欠となるのが、当社グループが歴史の中で築き上げていた技術力です。1912年の三井鉱山操業を起源とする、石炭化学から連なる精密合成技術、そして、1958年操業の日本発のエチレンプラントの石油化学から連なるポリマーサイエンス。これらのコア技術に加え、先に述べた医・食・住分野で重要なバイオ関連技術、この3つの技術が、2030年に向けた成長の柱となっていきます。しかし、その先の2050年の未来社会を見据えたとき、それらの技術だけで果たして十分なのか。その問いの答えを見つけるために2021年に設立したのが、未来技術創生センターです。ここでは2050年の未来社会における課題解決を三井化学グループが担ううえで、必要となる技術についての議論や研究を行っています。さらに2023年には、新たにCTOオフィスを設置するとともに、技術を切り口とした全社横断的な取り組みを強化する方針を固めました。技術視点で当社グループの持つアセットやノウハウを結集し、CTOをプロジェクトオーナーとして事業の垣根にとらわれずに人・技術を差配し社内共創を進めることで、成長領域における新たな事業機会を発掘していくことが狙いです。
このような技術を活かした研究開発を下支えするのが、基本戦略の一つでもあるDXを通じた企業変革です。特に前述したグループ内横断的な取り組みを推進し、アウトプットを最大化する上では、その可視化やアセットの最適化を含むマネジメントが重要です。2024年に開設するデジタルサイエンスラボには、デジタル人材を集積させ、当社グループのナレッジをデータベースとして、ハイパフォーマンスコンピューティング環境を活用した次世代型の研究開発を行っていきます。これにより、新素材開発のための計算や実験を繰り返すプロセスや、技術転用の可能性発掘のような、従来は技術者の経験やセンスに依存していたものをより効率的に行う、いわゆるマテリアルズ・インフォマティクスの実現に取り組みます。同時に、一般的にERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれる、グループの持つアセットを一元的に管理する基幹システムのDX化も進めています。技術に限らず、知的財産や人材のデータを可視化していくことで、グループ・グローバル規模でアセットの有機的なつながりを実現できます。こうしたDX技術を積極的に活用していくため、グループ内におけるデータサイエンティストついてもKPIを設定し育成を進めています。今後は事業本部や生産技術部門など各部門のデータサイエンティストが連携することで、データドリブンな組織への変革を目指します。

財務と非財務の統合を通じた企業価値向

財務と非財務の統合を図り、全社体制で目指す姿の実現へと向かう。

設定・開示から1年が経過した非財務KPIは、足元は目標をクリアしていますが、そこに甘んじることなく、今後、設定水準が適切かどうかも含めレビューを進めていきます。企業価値を向上するために何をするべきか、何をもって自分達の活動が正しいと判断するか、それらを可視化できるKPIを設定し、レビューしていくことが重要です。従来の財務KPIでは、ともすると事業部門だけが意識する目標となりがちで、全社目標としては少し弱いと感じていました。一方、非財務KPIはマテリアリティと紐づけており、その進捗が会社全体の2030年に向けた変化とリンクしています。今後は、非財務の取り組みが最終的に営業利益やROICにつながっていることを可視化することで、企業の価値は事業・機能部門が一緒になって作っているという意識を、社員に根付かせたいと考えています。
また、2023年からは役員報酬の算定フォーミュラにも非財務KPIを反映させています。これによって、非財務KPIの妥当性などについての経営陣での議論も深まりますし、経営の意思決定もますます財務・非財務を統合したものになっていくと考えています。コーポレート・ガバナンスという視点においても、社外取締役、社内取締役も含めた経営陣全員で財務・非財務を統合した経営を行うためには必須のアプローチだと思っています。

財務と非財務の統合を象徴する一つの例が、Blue Value®・Rose Value®製品・サービスです。2023年から売上収益比率に加え粗利益を開示しました。これらの製品は、社会課題解決に資するだけでなく、利益率が高い製品でもありますから、この売上収益比率を伸ばしていくことは、社会的な価値と財務的な価値の両面で企業価値を向上させていくことにつながります。同じように社員のエンゲージメントスコア向上もそれ自体が目的ではなく、組織力の向上、例えば新事業における新製品・事業創出の活発化を引き起こすことで企業価値の向上につながっていくことが重要です。こうした非財務の取り組みをパフォーマンスにリンクさせて捉えるという認識を今後全社へ浸透させていきます。

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サステナブルな未来社会に向けた第三の波を捉える

化学企業としての責務とグループの歴史を踏まえ、
グリーンケミカルに向けたファーストムーバーとなる。

カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー社会の実現が世界的な潮流となった今、避けて通れないのが当社グループの保有するナフサクラッカーの存在に関する議論です。ナフサクラッカーは多くのCO2を排出する設備ですが、同時に石油化学における要であり、あらゆる産業に向けた製品製造の最上流にあたります。つまり、社会的に必要不可欠な役割を担う設備であり、当社グループはその供給責任を果たしていくと同時に、もう一方の社会的要請であるCO2排出量削減に応えていく必要があります。そのために現在、源流となる原料・燃料のバイオマス化から製品のケミカルリサイクル・マテリアルリサイクルまでの一貫したバリューチェーンの開発を進めていますが、これこそが当社グループの持つ強みを活かした取り組みであり、同時に当社グループに課せられた責任であると考えています。
一方で、こうしたエコシステムを構築していくためには、他社や地域との連携も必要不可欠です。2023年からは、ナフサクラッカーのある市原工場および大阪工場にて複数社との連携を通じたバイオマス原料の確保やクリーンアンモニアの利活用体制の構築を進めています。解決すべき課題は依然として多く、簡単な道のりではありませんが、それでも当社グループが取り組む理由としては、第一にCO2を排出してプラスチックを製造している化学企業としての責任。第二に、当社グループの強みである化学の力を大いに発揮して社会課題解決に貢献できる機会であることです。そもそも当社グループには、第一世代の石炭化学、第二世代の石油化学、それぞれの時代にベンチャースピリットを発揮して果敢に挑戦してきた歴史があります。グリーンケミカルはこれに続く第三世代であり、我々の挑戦のDNAを発揮するときです。
もちろん、こうしたグリーンケミカルを社会に実装していくためには、社会の認識変化もしっかりと捉える必要があります。欧州は環境教育も充実しており、多少高価であっても消費者は環境貢献製品を選択する風潮も根づいてきていますが、日本がそうした潮流に追いつくのはまだ少し先の話になるかもしれません。企業だけでなく、政府の後押しなども重要なファクターとなりますが、当社グループとしてもそれを待つだけではなく、積極的にバイオマス製品等のマーケティングを行い、コストダウンはもちろん、価格プレミアムを上回る付加価値を提供すべく取り組みを進めています。さらにゆくゆくは環境貢献を謳う製品がある種のブームになることも想定されますが、その際にもグリーンウォッシュと呼ばれるような実質的に環境負荷低減効果の薄いものではなく、しっかりと科学的根拠に基づいた製品を提供していくことが、化学企業たる当社グループの使命だと考えています。

変革を導き、ステークホルダーの期待に応える企業グループへ

社員を主役として、目指す姿へと変革を実現する。

これまで申し上げてきたとおり、当社グループは今まさに大きな変革の途上にありますが、忘れてはならないのは、こうしたプロセスにおいては現場に大きな負担がかかるということです。経営陣が決めた施策を、現場で実行するのは一人ひとりの社員です。もし経営陣がモニタリングやサポートを怠れば、現場は疲弊し、先のスポーツ選手の例で言えば、身体を壊してしまうことになるでしょう。そうならぬよう、きちんと全体を見て正しいバランス・ペースで施策を進め、成長につながる方向性を見極めるのが私の仕事です。変革の主役はあくまで社員です。であれば、かつての大量生産時代の分業体制のような、考える人と手を動かす人が完全に分かれるやり方ではなく、価値を創る社員一人ひとりが自ら考え行動し、チャレンジしつつ失敗を次に生かすというサイクルのもと仕事に取り組めるよう、私も含めた経営陣が支えなければなりません。社員一人ひとりのチャレンジを実際の成長・成果につなげていくことによって、自信につなげ、そうした社員一人ひとりの行動により企業文化も少しずつ変わっていき、当社グループの目指す姿および2030年の目標達成につながると考えています。
これまで述べたすべての施策が最終的に企業価値の向上につながるものであり、それが株主の皆様を含めたステークホルダーへの価値提供にもつながっていくと私は考えていますが、まだそれがすべての方々に説得力を持って実感いただけているとは思っていません。今後も引き続き、あらゆるステークホルダーとの対話を積み重ねるとともに、しっかりと実績を出していくことで、当社グループの成長とビジョンの実現にますますご期待いただけるよう、尽力します。