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CEOメッセージ

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2023年度の事業環境とVISION 2030の3年間の振り返り

厳しい事業環境においても数字目標は

堅持し、着実に成長を加速する。

VISION 2030をスタートして3年が経ちました。現時点では、通過点にあたる2025年のコア営業利益目標2,000億円に対して、残念ながら想定ペースよりも遅れている状況です。この事実を真摯に受け止めた上で、2023年度の事業環境と、3年間で得た成果、および見えてきた課題について分析をしたいと思います。
2023年度の事業環境は、中国経済の先行き不透明感と供給過剰による市場構造の変化、その他アジア諸国の新興企業の技術レベルの向上による競争激化が大きな焦点となりました。化学業界においては、これまでの日本の技術的な優位性がますます揺らぎつつあります。
このような環境の中においても、当社グループの成長領域については、直近5年間の平均成長率を見ても、着実に成長していると言えます。ただし、そのスピード感については、全体として当初計画よりもやや遅延していると言わざるを得ません。ライフ&ヘルスケア・ソリューション事業は、特にオーラルケア事業の拡大遅れや、不織布事業の衛生材料分野における競争激化を受け、当初想定よりも伸び悩んでおり、成長軌道への回帰が喫緊の課題です。一方でモビリティソリューション事業については、自動車生産台数の回復基調などの追い風や、高付加価値分野における成長により2025年目標を前倒しで達成できると見込んでいます。またICTソリューション事業については、特に半導体需要の落ち込みといった一時的な逆風環境下にあるものの、足元では回復傾向にあり、今後の拡大需要を着実に取り込むことで想定ペースに向けて持ち直していく必要があります。さらに当初計画に比して劣後しているのが、再構築を進めているベーシック&グリーン・マテリアルズ事業です。大型市況製品の見直しを進めた再構築第1幕がおおよそ完了した段階で一定の収益確保を見込んでいましたが、中国経済成長の鈍化や供給過剰を受けた国内市場構造の変化などの外部環境の変化を受け、まだ十分な水準には至っていません。今後、再構築第2幕を加速し、早急に収益の底上げおよび安定化を図っていく必要があると認識しています。
この厳しい事業環境下、一部の影響は長期化も想定されますが、一方で新事業開発や企業変革といった取り組みは順調に進捗しており、着実に目指す姿に向かう流れができています。こうした流れを加速し、事業を再び成長軌道に乗せていくという強い意志のもと、あくまで2030年度目標の通過点目標であるコア営業利益2,000億円は堅持していくつもりです。

VISION 2030基本戦略の方向性

積極的な資源投入と他社連携を通じて、
グローバルスペシャリティカンパニーへの道を拓く。

事業ポートフォリオ変革は、成長領域における高成長・高収益のグローバルスペシャリティケミカル事業の追求と、ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業における競争力のある誘導品を中核としたグリーンケミカル事業の追求の2つを戦略の軸として推進していきます。
成長領域を今後さらに加速させていく上では、グループの持つ既存技術に磨きをかけ、競争力を高めていくオーガニック成長に加え、M&Aやアライアンスによるインオーガニックな成長を両建てで実行していく必要があります。
例えば、ライフ&ヘルスケア・ソリューション事業では、不織布事業における産業資材の強化・拡大を目指し、旭化成(株)と新会社を設立しました。これは、当社グループの強みであるポリオレフィン等の原料設計技術と、歴史的に繊維に強みのある旭化成(株)の加工技術を融合させていくことで、コスト競争力のある事業基盤を築きつつ、衛生材料を取り巻く厳しい環境の中、より付加価値の高い製品にポートフォリオを高度化していくことが狙いです。ICTソリューション事業では、今後ますます需要拡大が見込まれる半導体分野への積極的な資源投入を行っています。半導体製造の前工程領域では、当社グループの持つペリクル技術を活かし、ASML社やimecとの連携を通じて次世代EUVペリクルであるCNTペリクルの事業化を進めています。一方、接着剤やコーティング材といった素材のポテンシャルを発揮しうる後工程の領域では、新光電気工業(株)への出資を決定しました。参入障壁の高い分野である半導体分野において、こうした他社とのシナジーを足掛かりとして次世代半導体に向けた材料開発を加速させていき、事業を拡大していく狙いです。また、ディスプレイをはじめとする光学分野においても、ARやVRといったXRの次世代領域に対し、グループの既存の素材や技術を活用できる素地があり、多用途展開の実現に向け積極的に資源投入を行っていきます。
ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業については、先ほども申し上げた再構築の第2幕によるボラティリティ低減と事業基盤の強化を加速するべく、誘導品分野においては3つの観点から仕分けを行っていきます。1点目は、製品の持つ競争力、2点目は、経済安全保障も考慮したエッセンシャルな需要です。後者にはいわゆるコモディティ製品も含まれることになりますが、需要に見合った形で地域や他社との連携も行いながら最適運営体制を追求することで収益性を確保していきます。そして3点目は、資本効率の重視です。これらの観点によってポートフォリオの最適化を進め、より筋肉質な事業構造へと変革していきます。
ソリューション型ビジネスモデルの構築においては、新事業開発センター担当に下流領域の知見が豊富な表氏を迎え、私たちが得意とするB to B型の上流視点と組み合わせることで、様々な新事業や新製品、新しいビジネスモデルを生み出す流れができてきています。これに加え、CVCファンドの立ち上げを通じたスタートアップなどとの協業によって、世のアンメットニーズを探索するとともに、グループ内外の技術およびノウハウが分野を超えて結合することで様々な次世代ビジネスの開発が進んでいます。中でもグループ内のアセットやノウハウをフル活用できるターゲットとして、ロボットソリューション、データソリューション、そしてメディカルソリューションの3つを次世代ビジネス候補群に定めました。これは、例えば従来のレンズ素材とコーティング技術のように、2つの素材・技術を組み合わせた新製品というレベルにとどまらず、膨大な素材の選定から設計・量産における当社グループのデータやアルゴリズムの活用といったトータルでのシステム設計、事業デザインを行うものです。こうした取り組みが実を結んでいくことで、他社にはまねのできない独自のビジネスモデルをつくり、現在の4事業に加わる新たな事業本部となりうる水準を目指しています。
こうした取り組みを加速させる強力なドライバーとなるのが、DXだと思っています。IoTやAIといった先進的な技術の導入による高効率かつ安全な製造現場づくりや、資源循環型プラットフォームの構築によるグリーンケミカルの推進、そして膨大な研究データの活用によるマテリアルズ・インフォマティクス等、技術や研究開発の加速を進めていきます。これらと並行してDX推進本部が中心となってグループ人材のデジタルリテラシー向上を図り、実際にイノベーションのスピードが上がっていくことで成功体験を積み上げ、CXの実現を目指します。

目指す姿を実現する企業文化変革

目指す姿に向けてマインドセットを変革し、
挑戦と新しい発想を促す。

これは私が繰り返し申し上げていることですが、こうした戦略を実行する主役は社員です。いかに優れた戦略があろうと、実行する社員の意識が伴わなければ、目標を実現することはできません。特にソリューション型ビジネスモデルの構築においては、これまでのようなB to Bのすり合わせ型のような発想から、複眼的な発想で新しいビジネスを創っていくという社員のマインドセットの切り替えが何よりも重要です。日々社員とコミュニケーションをとる中で、新しいことにチャレンジしなくてはならないという意識は徐々に形成されていると感じますが、そのための具体的なアクションにつながっていくステップはまだまだこれからであり、今後も会社として引き続き方向性を示す必要があります。また、重要な点は、こうしたマインドセットをグローバルに広げていくことです。それに資するような取り組みとして、グループ内で新事業・新製品の提案を募集するビジネスコンテストを開催しています。2023年度に開催した第一回は主にアジアの関係会社を対象としましたが、2024年度からは全海外関係会社からアイデアを募集し、最終的に役員やグローバルの社員が審査員として投票する形式をとっています。優勝を勝ち取ったアイデアには、スポンサー事業部のもと事業化に向けた支援を行います。これによって一人ひとりのチャレンジ精神に応え、成功体験を得る機会を提供すると同時に、グローバルに社員同士のつながりができるメリットもあると考えています。

また、人材戦略の基盤をさらに強化するべく導入したWorkday(グループ統合型人材プラットフォーム)で、グローバルなグループ社員約20,000人の人材データを管理できるようになりました。これにより、事業ポートフォリオの変革加速やソリューション型ビジネスモデルの構築といった戦略の実行に向けてグループの持つリソースをフル活用していく下地ができたと考えています。
前述のような施策に加え、働き方改革、リスキリング等、社員の働きやすい環境づくりや、スキル向上に必要な投資も引き続き行っていきます。こうした施策は、三井化学レポート2022の私のメッセージでも説明した通り、政治哲学者ジョン・ロールズが社会の重要な原理として挙げた「機会均等原理」と「平等な自由への権利」を社内において実現することを意識したものです。これを企業における原理として翻訳すれば、働く環境整備やチャレンジを評価する施策を通じて、グローバルにすべての社員が機会を与えられ、自由に発想できることが重要だということです。もちろん、平等と言っても、社員の能力や、個性のあり方は多様ですから、評価制度も杓子定規なものであってはいけません。様々なバックグラウンドを持つ社員がそれぞれの長所を活かすことのできる制度や環境づくりをしていくことで、当社グループの目指す姿の実現につながっていくと私は考えています。

グリーンケミカルの実現による社会的価値と財務的価値の両立

化学業界の大変革の中で、
ファーストムーバーとして真に社会課題解決に資する企業となる。

化学業界という変化の激しい世界で、三井化学グループはこれまで第一世代の石炭化学、第二世代の石油化学といった時代で常に先端を走ってきました。こうした自負と変革のDNAがあるからこそ、第三世代にあたるグリーンケミカルの実現においても先駆者としての役割を果たしていけると考えています。
現在、化学業界では石化再編が大きなトピックとなっていますが、重要な点は、半導体やEVといった次世代領域も、こうした基礎原料や関連技術が根元にあるということです。このような経済安全保障にも関わるエッセンシャルな部分を意識しながら、いかに付加価値を高め、サステナブルな成長を実現していくかということが問われています。当社グループにとっては、長い歴史の中で培ってきた石油化学に関連する技術の系譜をさらに発展させ、グリーンケミカルへの変革を勝ち抜くという大きな挑戦です。言うまでもなく難しい挑戦ではありますが、一方でこれをチャンスと捉え、幅広い化学素材の源流にあたる基礎原料においてグリーン化を実現できれば、非常に大きな差別化要因となります。これは、戦後から高度経済成長期に至るまで日本の石油化学産業とともに歩みを進めてきたということからも、私たちが実現しなければならない責務だと感じています。
そのために、現在大きく分けて3つの取り組みを進めています。1つ目が、同業の競合他社やアカデミア、スタートアップなどとの連携による、コンビナートのグリーン化や、バイオマス原料、クリーンアンモニアの活用体制といったエコシステムの設計です。2つ目が、国や自治体、お客様との、競争力がありマネタイズを意識した誘導品の訴求。そして3つ目が、生産に必要な電力やガス等、社会インフラを含めたエネルギーのグリーン化です。いずれもグリーンケミカルの実現には欠かせない要素です。
こうした取り組みを進めていく上で重要となる考え方が、社会課題解決への貢献をきちんと利益に還元していくことです。利益の上がらない事業は、世の中から十分に価値が認められているとは言えません。消費者をはじめとするお客様に製品の持つ付加価値を認めていただき、それが収益につながっていく事業こそが、真に社会貢献に資する事業です。この方向性に沿っているか否かを測るためのバロメーターの一つとなるのが、非財務KPIに掲げているBlue Value®およびRose Value®製品の売上収益比率です。これらをきちんと伸ばしていくことが、社会的価値と財務的価値の両立を実現することにつながっていくと考えます。

資本効率性を高め、機会を最大化する

戦略の確実な実行を通じ、
VISION 2030実現に向けて歩みを進める。

ここまで述べたような戦略の確実な実行に加え、ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業やグループ全体のアセットライト化、膨らんだ在庫の圧縮を徹底して行うとともに、戦略に直接結びつかないような政策保有株の整理を進めています。そうして得たキャッシュを再投資や株主還元に回して資本効率を改善することで、2030年に10%を目標としていたROEの目線引き上げを検討しています。そのためにも、これまで以上に資本効率性を意識した取り組みを進めていきます。また、2023年7月には、リスクマネジメントシステムの刷新を発表しました。リスクマネジメント委員会を新たに設置し、各部門の担当役員がリスクマネジメントオーナーとなり、それぞれの所掌領域のリスクを委員会で議論する体制を構築しました。これにより、経営層がより網羅的にリスクを把握しつつ、全社重点リスクを特定し、優先順位づけを行い、対応方針等を可視化した上で経営計画システムに反映します。ESGの諸課題を戦略に組み込むこともリスクマネジメントの一環であり、リスクのネガティブな側面に対処することで企業としての社会的責任を果たすと同時に、課題解決を通じたビジネス機会も含めた包括的なものとして捉え、脅威を最小化しつつ機会の最大化を目指していきます。
私が2020年4月に社長に就任してから4年が経ちました。VISION 2030のレビューを含めこれまでの歩みを真摯に見直し、改めて2030年の目標に向けてサステナブルな成長を実現し、企業価値を向上させていくことが、私の責務だと考えています。COVID-19収束後、三井化学グループとしてダボス会議をはじめとした多くの国際会議に出席しました。グローバルトップの企業群と議論を深めることで、まだまだやるべきことが山積みであると痛感する良い機会となりました。もちろん、会社経営は駅伝と同じで、一人が最後まで走り切るものではなく、そのための後継者育成計画をはじめとしたキータレントマネジメントも着実に進めています。いずれたすきをつなぐときには、しっかり加速した状態で渡すべきだと考えています。
VISION 2030の変革はまだまだ道半ばです。策定時から事業環境の変化もありますが、大きな道筋は依然として変わっていません。課題に対して対策を打ちつつ、あくまで軸をぶらすことなくグローバルスペシャリティカンパニーを目指して着実に歩みを進めることが、ステークホルダーの皆様の期待に応えることだと思っています。