日本語 English

三井化学 触媒科学賞 受賞者一覧

三井化学は、化学および化学産業の持続的発展に寄与する目的で、世界の触媒科学分野において特に優れた研究業績をあげた研究者を表彰する「三井化学 触媒科学賞」、「三井化学 触媒科学奨励賞」を2004年に制定いたしました。

これまでの受賞者は以下の通りです。

※ 所属・肩書きは発表当時のものです。

三井化学 触媒科学賞

Melanie S. Sanford

ミシガン大学 教授

業績:Developing late transition metal catalyzed reactions for carbon-carbon and carbon-heteroatom bond formation

Melanie S. Sanford博士は、C-H結合官能基化反応のための後期遷移金属触媒の開発にいち早く着手し、この分野の研究に大きな影響を与えた。また、フッ素化および放射性フッ素化反応のためのパラジウムおよび銅触媒を開発し、これらの反応における反応機構に関して精力的に研究を展開した。さらに、塩基を用いないクロスカップリング反応として脱カルボニルクロスカップリング反応に着目し、独創性の高いニッケルおよびパラジウム触媒を開発した。この反応では、ハロゲン化アリールの代わりにカルボン酸およびその誘導体が求電子剤として用いられる。これらの研究は触媒科学の発展に大きく貢献しており、今回の受賞に至った。

Frank Glorius

ミュンスター大学 教授

業績:Development of Chemo- and Enantioselective Arene Hydrogenation and of Additional Tools for Improving Synthesis

Frank Glorius博士は、効率的な有機合成反応を実現するための様々な触媒を開発してきた。N複素環カルベン(NHC)配位子にいち早く着目し、金属・NHC錯体を用いる選択的なアレーン水素化を実現し、また、ナノ粒子触媒にも適用できることを明らかにした。さらに、C-H結合活性化のための触媒開発でも顕著な成果を挙げ、独創的な可視光フォトレドックス触媒や有機触媒も開発している。また、最近ではスマートデータ生成の方法や機械学習でも成果を挙げている。これらの幅広い研究は触媒科学の発展に大きく貢献しており、今回の受賞に至った。

M. Christina White

イリノイ大学 教授

業績:Site-Selective Aliphatic and Allylic C—H Oxidations for Late-Stage Functionalization

Christina White博士は、アリル位および脂肪族の触媒的C–H酸化反応の開発において、先駆的な業績を挙げている。従来、このタイプの反応には配向基を有する反応基質を用いる必要があったが、White博士は新規の遷移金属触媒を開発し、配向基を用いない選択的な酸化反応を実現した。White博士の手法は、複雑な構造を有する化合物の、いわゆるlate-stage functionalizationにも適用することができ、薬科学の分野にも貢献しうることが高く評価され、本受賞に至った。

Shannon S. Stahl

ウィスコンシン大学マディソン校 教授

業績:Catalysts for Selective Aerobic Oxidation of Organic Chemicals

Shannon Stahl博士は、空気による酸化触媒の開発において新しい分野を拓いた。すなわち、ファインケミカルや医薬品などの有機化合物を、空気または分子状酸素を酸化剤として用いて選択的に酸化するための一般的性の高い触媒を開発し、これらの反応の機構に関する基礎的な理解を深めた。

F. Dean Toste

カリフォルニア大学バークレー校 教授

業績:有機合成に向けた新コンセプトおよび新触媒の導入:均一系金触媒および不斉対アニオン触媒を含む触媒反応開発

F. Dean Toste博士は、高原子価金属酸化物や不斉対アニオン等による次のような革新的触媒の開発に先駆的役割を果たした (1) 低原子価金錯体による均一系触媒; (2) 高原子価金属オキソ錯体触媒; (3) 不斉対アニオンによる相間移動不斉触媒。また発酵と金属触媒系を組み合わせたバイオマスからの燃料や化学物質の合成も展開した。

David W. C. MacMillan

プリンストン大学 教授

業績:有機触媒の新しい展開

David W. C. MacMillan博士は、有機触媒、特にキラルな触媒について顕著な業績をあげている。有機触媒の開発を先導し、環境にやさしい非金属触媒を実用的なレベルで実現するとともに、その後もこの分野で中心的な役割を果たしてきている点が評価できる。

John F. Hartwig

イリノイ大学 教授

業績:炭素-水素結合活性化および高効率カップリング反応などの斬新かつ実用的な触媒反応の開発

John F. Hartwig博士は、触媒科学の未解決課題の一つである触媒的炭素-水素結合活性化への先駆的寄与、および高効率的カップリング反応の開発など新形式反応の開発を広く行った。また、その研究を支える反応機構研究の深さについても特筆できる。

野崎 京子

東京大学 教授

業績:極性モノマーの配位共重合のための新しい触媒の開発

野崎京子博士は、触媒反応に関する基礎研究の蓄積を通じて、触媒科学の重要課題の一つであるオレフィンと極性モノマーの配位共重合を可能とする革新的触媒反応を開発した。

侯 召民(Zhaomin Hou)

理化学研究所 主任研究員

業績:新しい希土類金属錯体触媒による重合反応の開発

侯召民博士は、希土類錯体の基礎化学から応用までの系統的な研究を通じて、新触媒によるオレフィンおよびジエンなどの広範な重合を実現し、新規高分子材料開発の道を拓いた。

Gregory C. Fu

マサチューセッツ工科大学 教授

業績:新概念触媒に基づくカップリング反応と不斉合成反応

Gregory C. Fu博士は、有機合成触媒の開発において、面性不斉などの新しい概念を提案し、新規性、汎用性が極めて高い、種々の有機合成手法を開発した。

Eric N. Jacobsen

ハーバード大学 教授

業績:不斉酸化・加水分解・炭素-炭素結合生成反応に向けた不斉触媒の開発

Eric N. Jacobsen博士は、新しい選択的不斉合成反応を、真に重要な化合物に標的を絞って開発し、実用レベルまで完成させた。

小林 修

東京大学 教授

業績:環境調和型有機合成を指向した新触媒の開発

小林修博士は、新しい概念のルイス酸触媒や、水中での反応が可能な触媒など、革新的な業績を挙げ、独創的で環境低負荷型の有機合成分野を展開した。

三井化学 触媒科学奨励賞

Todd K. Hyster

コーネル大学 准教授

業績:Photoenzymatic catalysis in organic synthesis

Todd K. Hyster博士は酵素の活性サイトにおいて補酵素の可視光活性化を巧みに組み合わせる事でラジカル不斉合成を高効率で達成する新しい生体触媒法を開発し、有機化学と生物化学を融合させた新領域を開拓した点が高く評価された。最近では分子内C-C結合形成による不斉環化反応や分子間カップリングによる新規化合物の合成にも成功するなど、自ら開発した方法論の汎用性を広げてきており、酵素を用いる環境に優しいファインケミカル製造プロセスとして今後の更なる発展が期待される。

Robert J. Phipps

ケンブリッジ大学 准教授

業績:Development of novel strategies for selectivity control in catalytic reactions

Robert J. Phipps博士は、遷移金属触媒と基質間のイオンペアリング相互作用を鍵とする反応設計により、メタ位やパラ位選択的なC-H活性化反応やクロスカップリング反応を開発し、不斉C-H活性化反応にも展開している。さらにイオンペアリング戦略を用いてラジカル反応のエナンチオ制御にも成功し、その合成化学的有用性を示した。

Matteo Cargnello

スタンフォード大学 助教授

業績:Use of Well-Defined Materials for the Preparation of Catalysts Aimed at the Sustainable Production of Fuels and Chemicals, and Environmental Protection

Matteo Cargnello博士は、触媒構造と触媒活性の関連をこれまでにない精度で解明し、固体触媒科学の進展に寄与した。特に、Pd-CeO2のコアシェル構造の工夫によるメタン燃焼活性の長寿命化、金属-酸化物の境界の長さと触媒活性の関連の実証、排ガス処理触媒中の活性金属の原子状分散による活性低下解明等が高く評価された。

岩﨑 孝紀

東京大学 准教授

業績:Cooperative Catalyses of Transition Metal Anion and Typical Metal Cation

岩﨑孝紀博士は、遷移金属アニオンと典型金属カチオンの協調触媒を用いる様々な有機合成反応を開発した点が評価された。典型金属のマグネシウム、リチウム、亜鉛と遷移金属のロジウム、コバルト、銅、鉄などからなる錯体を用いて、効率的なC-C結合形成を行う一方、これらの錯体がC-OおよびC-F結合などの強力な化学結合を切断できることを実証した。

生長 幸之助

東京大学 講師

業績:Chemoselective Transformations by Radical-Conjugated Redox Catalysis: From Functional Small Molecules to Biomacromolecules

生長幸之助博士は、有機ラジカルと一電子レドックス触媒を組み合わせたradical-conjugated redox catalysisを活用し、選択的な有機変換反応を実現した。同博士の手法は、小分子から高分子まで適用でき、特に、タンパク質など複雑な構造を有する生体マクロ分子の選択的な変換を実現した点が高く評価された。

Robert R. Knowles

プリンストン大学 教授

業績:Proton Coupled Electron Transfer in Organic Synthesis

Robert R. Knowles博士は、酸化 (レドックス) 光触媒系を用いたプロトン共役電子移動 (PCET) により、有機合成に有用なラジカル生成反応を先駆的に開発し、波及効果の大きい新たな領域を確立した。とくに、イリジウム錯体光触媒系により炭素-水素結合の官能基化や閉環反応を可能とする酸化的あるいは還元的PCET系を多数開発し、ファインケミカルや天然物などを合成する方法を開発した。

Neil K. Garg

カリフォルニア大学ロサンゼルス校 教授

業績:Breakthroughs in Non-Precious Metal Catalysis and Harnessing Catalytic Transformations in Total Synthesis

Neil Garg博士は、卑金属触媒を用いた反応や高ひずみ化学種を駆使した反応を開発し、天然物を含む、有用なヘテロ環化合物の効率的な新規合成法を開発し、有機合成に新しい可能性を示した。

伊藤 慎庫

東京大学 大学院 助教

業績:Polymer Synthesis Based on Innovative Retrosynthesis

伊藤慎庫博士は、「革新的逆合成」という概念に基づいて,機能性高分子の合成を可能とする新たな触媒と重合反応を開拓した: (a) フォスフィン−スルホン酸エステル配位金属錯体による α−オレフィンと極性ビニルモノマーの共重合: (b) 「ピンポン重合」— 交互アリール化—ヒドロホルミル化反応とビニルアルコール−エチレン交互共重合: (c) 双環オキソアルケンをアリン等価体とする o-アリレン含有高分子合成。

千葉 俊介

南洋理工大学 准教授

業績:含窒素複素環化合物の合成を指向した一電子移動型レドックス触媒系の開発

千葉俊介博士は、銅触媒による空気酸化反応や、マンガン触媒によるラジカル反応などにおいて、一電子移動による酸化還元(レドックス)を利用した独創性の高い分子変換反応を開発し、医農薬や材料分野で広く用いられている含窒素複素環化合物の合成に途を開いた。

熊谷 直哉

微生物化学研究所 主席研究員

業績:協奏機能型不斉触媒の開発と医薬品の高効率不斉合成への応用

熊谷直哉博士は、ソフトLewis酸/ハード塩基、希土類金属/水素結合性配位子を組み合わせた独自の協奏機能型不斉触媒系を開発し、創薬にも関連する多数の有用化合物の高効率不斉合成を達成した。

山口 和也

東京大学 准教授

業績:金属水酸化物の特性に基づく高活性不均一触媒の開発

山口和也 博士は、不均一系触媒の分野に新しい分子設計的な概念を導入し、独自の視点から創出した金属水酸化物触媒 (Ru(OH)x / AI2O3 等)が、効率的な有機合成反応に適用できることを明らかにした。着眼点がよく、よく知られた材料のなかに新たな価値を見出した。今後幅広く使われることが期待される。

依光 英樹

京都大学 准教授

業績:不飽和アルコールと有機ハロゲン化物のパラジウムによる触媒反応の開発

依光英樹 博士は、活性な有機金属化合物を使って実現されてきたパラジウム触媒によるクロスカップリング反応を、ホモアリルアルコールの巧みな分子設計により、中性分子を用いて高効率に実現した。この合成手法は環境負荷の少ない精密触媒科学の新天地を切り開くものと評価される。

松永 茂樹

東京大学 講師

業績:不斉配位子設計に基づく多中心触媒反応の開発

松永茂樹 博士は、触媒反応を多中心的に制御するという概念の有効性を実証し、有用有機化合物の合成に展開した。

中尾 佳亮

京都大学 助教

業績:炭素-炭素結合形成付加反応のための協働金属触媒の開発

中尾佳亮 博士は、ニッケルとルイス酸の協働的触媒作用を用いることにより、新しい炭素-炭素結合形成付加反応を開発した。

寺尾 潤

大阪大学 助手

業績:陰イオン性遷移金属錯体を鍵触媒中間体とする炭素結合生成反応

寺尾潤博士は、陰イオン性オレフィン遷移金属錯体に着目し、カップリング反応や付加反応などの炭素-炭素結合形成反応の新触媒となることを示し、有機合成に新しい分野を切り拓いた。

陳 志宏(Michael C. W. Chan)

香港市立大学 助教授

業績:重合反応における弱い吸引性相互作用の重要性の提示

陳志宏博士は、オレフィン重合制御のための弱い吸引性相互作用の重要性を中性子回折などの手法で証明し、重合触媒設計への新しい指針を提供した。

桑野 良一

九州大学 助教授

業績:新規不斉触媒と遷移金属触媒反応の開発

桑野良一博士は、トランス配位という独創的な着想に基づいて、新規キラルホスフィン配位子を創製し、不斉還元の分野に新しい展開をもたらした。

伊丹 健一郎

京都大学 助手

業績:着脱可能な配位性制御基を用いた新合成方法論の開拓

伊丹健一郎博士は、パラジウムを中心とした金属触媒の配位子に関して、着脱可能な制御基という概念を提唱し、種々の新規フォスフィン配位子を設計して高選択・高効率を達成した。