三井化学、尿素と微生物培養技術でアマモ場再生を支援
2020.02.27
三井化学株式会社
三井化学株式会社(代表取締役社長:淡輪敏)は、水生生物の産卵場所や幼稚仔魚の成育の場となるアマモ場の再生のため、和歌山工業高等専門学校の楠部准教授が進める、和歌山県方杭(かたくい)海岸でのフィールド試験において、バイオセメントの原料の一つとして使用する尿素を提供するとともに、バイオセメントを固化する際に活躍する微生物の大量培養を、当社の培養技術を使って行いました。
楠部准教授たちが開発したバイオセメントは、微生物の尿素の代謝を利用して砂を固化させたもので、海水中で徐々に崩壊する性質をもちます。アマモ場を形成したい海底の砂やそこで採取した微生物を使ったバイオセメントでアマモ種子を埋包して海底に沈設すれば、アマモの成長に合わせてセメントが崩壊し、元の環境に戻ります。そのため、外部環境から異物を持ち込まず、シンプルで環境負荷をかけない海洋環境保全を実現することができます。
微生物の大量培養に使用されたバイオエンジベンチは、三井化学茂原研究・開発センター(千葉県茂原市)にあるパイロットレベルの培養設備で、通常はバイオ関連製品の開発のスケールアップを検討するために使用されています。
【バイオエンジベンチで微生物を培養する様子】
アマモは、海中の有機物の無機化や海中へ酸素を供給する役割を持つ海草で、その群生地は、水生生物の産卵場所や幼稚仔魚の成育の場となります。しかし、経済成長に伴う環境汚染や埋めた立てにより、この30年で世界中の海洋のアマモ場が減少し、1)日本においては1960から1990年代にかけて約3割が減少 2)、特に瀬戸内海では、アマモ場の7割が減少しています 3)。
アマモ場の再生には、従来、生分解性プラスチック容器を用いた植え付けやアマモ種子を織り込んだ麻シートの沈設などが行われてきましたが、いずれも海洋ゴミを増加させる可能性があり、さらなる技術開発の必要性が求められていました。
2019年12月、楠部准教授と、和歌山工業高等専門学校の学生たちの手によって開始されたフィールド試験は、順調にいけば2月に出芽が観察されます。今後数年をかけて定点観測と海水採取を行い、アマモ場の拡大と水生生物の回復と維持を評価していく予定です。また、三井化学のバイオエンジベンチで大量培養された微生物は今後のフィールド試験への利用を視野にいれ、和歌山高専にて保管されています。
三井化学は、今後もさまざまな社会課題解決に向けて、事業活動を通じて広く貢献してまいります。
【バイオセメント】
【海底への散布】
【アマモ】
【海中に沈設したバイオセメント】
【期待される発芽(写真は事前実験時のもの)】
*参考資料と出典
1) 菊池泰二,世界における海草藻場研究の現状,ベントス研連誌, pp.1 21 (1974).
2) 環境省自然環境局生物多様性センター・自然環境保全調査「干潟・藻場・サンゴ礁調査」
3) 環境省「瀬戸内海干潟実態調査報告書」