海ごみはどこからやってくる? 〜オープンイベント実施報告〜

海ごみはどこからやってくる? 〜オープンイベント実施報告〜

2018年11月7日

小島あずさ
小島あずさ氏プロフィール

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第一部: JEAN/小島あずさ氏による講演

JEANの設立と活動内容

小島氏はまずこのように述べました。
「私は今日、海洋ごみについてこれまで知りえたことや、JEANの取組を通して感じたことをお話しますが、これは決して『プラスチックの使用を金輪際やめるべき』ということをお伝えしようというものではありません。
JEANは『JAPAN ENVIRONMENTAL ACTION NETWORK』の頭文字ですが、主な活動内容は日本国内でのICC(国際海岸クリーンアップ)の企画運営で、海外とも連携しながら海洋ごみの調査や情報収集を行っています。取組のテーマは一貫して『海洋ごみ』で、クリーンアップ活動の他にも漂着ごみに困っている地域への支援や企業・団体の取組への協力や、教育活動も行っています」

海洋ごみはどこからやってくるのか

海洋ごみと聞いて思い浮かぶのは、レジャー客などが捨てたポリ袋やペットボトルなどが一般的かもしれません。しかし、海辺で捨てられたものだけが海洋ごみになるわけではないそうです。

 

「海のごみはどこから生まれるのか、そして誰が捨てているのか。もちろん海でレジャーを楽しんだ人が飲食したごみをそのまま捨てて帰る“置き捨て”もあります。ですが、それが海洋ごみの全てではありません。実は海洋ごみの多くが、陸から運ばれてきたものなのです」

 

小島氏によると、海のごみは以下のような構成であるといいます。

  • 海岸への置き捨て
  • ポイ捨てなどの不法投棄
  • 船からの投棄
  • 海上の貨物や漁具
  • 別の海岸からの漂着
  • 水路や川の上流域から
  • ごみ置き場の管理不十分

 

「例えば私たちが普段生活している街や住宅地などで、たばこの吸い殻やコンビニ弁当の容器などが捨てられているのを見ますよね。こうしたごみが風で飛ばされたり雨に流されたりして水路や川に入り、最後には海に流れ出しているのです」

 

それでは、海洋ごみのどのような点に問題があるのでしょうか。小島氏は「ごみの大半がプラスチックであること」だと指摘します。

「プラスチックは物質として非常に安定していて、溶けたり消えたりしません。それは製造者や利用者にとってとても便利なことですが、これらのプラスチックがひとたび散乱ごみとして環境中(この場合は海)に出てしまうと、誰かが見つけて回収をしない限り、環境中にとどまり続けます。そしてプラスチックは非常に軽く、風で簡単に移動していくために、崖の下の海岸などの回収不可能なところに漂着したり、国境を越えて外国の海岸へ漂着したりということもあります」

海洋ごみが生き物にもたらす影響

このように海へ流出した「海洋ごみ」が、環境にどのような影響をおよぼすのか。小島氏はまず生物への影響を取り上げました。

 

「よく『ウミガメがポリ袋をクラゲと間違えて食べてしまう』という事例を耳にされることと思います。もちろん、プラスチックは生物の体内では消化できませんので体内にとどまります。少量であれば即座に命にかかわることはないとされていますが、誤飲をくりかえすと体の中がごみでいっぱいになり、えさをとれなくなることで死にいたります。また、イルカやアザラシなど知能が高く好奇心旺盛な生き物は、海面を漂うごみをおもちゃにすることもあります。大きな漁網などの近くにはえさとなる小魚がいることも多いのですが、これに運悪く絡まってしまう個体もいます。網が体に絡みつくと、海底の岩などに引っかかって動けなくなるものもいますし、幼い動物の場合は成長につれて網が体に食い込み、皮膚が切れてしまうケースもあります」

「動物だけでなく植物への影響も起きています。大量のごみが漂着して、海岸の植物の上をおおってしまうような場所では、プラスチックごみが光合成を阻害し、生態系を崩してしまいます。海岸だけでなく海底にもごみはあります。実際に漁船に乗せていただき、底引き網の中を見たことがありますが、魚にまじって大量のごみがかかっていました。これらのごみは廃棄の際、産業廃棄物として漁業者の負担によって処理されますが、漁業者の負担を増やす原因にもなっています」

日本からも大量のごみが排出されている!

ごみが海岸に漂着するということはどこかから排出されているということ。日本の海岸には海流にのって大量のごみが漂着しますが、日本から流れ出ていくごみももちろんあるとのこと。

 

「日本の太平洋側を流れる黒潮は、日本の南から流れてきて沿岸を流れ、千葉県の銚子市のあたりから日本を離れていきます。その影響を受けて、高知県や和歌山県には多くのごみが漂着し、また京阪神や中部地域、首都圏などの大都市から出たごみは、海流にのって太平洋へ流れ出ていきます。
次にその海流が陸地を近づくのは、北西ハワイの海域です。ミッドウェイ環礁という島しょ地域は、豊かな自然の残る海洋保護区で、観光客が訪れることはできない『自然の楽園』といわれるところですが、ここに日本から大量のごみも流れ着いていることがわかりました」

ごみの写真をよく見ると、日本語の表示や見覚えのある容器・キャップが散見されます。
「この島にすむ“コアホウドリ”のヒナの死骸からも、大量のプラスチックが検出されています。直接の死因かどうかはわかりませんが、解剖した死骸のほとんど全てからプラスチックが見つかるそうです」

破片化した「マイクロプラスチック」の脅威

黒潮の上流である日本から排出されたごみの一部は、ハワイ海域へ流れ着くことがわかりました。ここで小島氏は、新たな海洋ごみの問題を提起します。

 

「ハワイ島のサウスポイントというところを例にとりますが、ここは非常にアクセスが悪く、清掃活動も年に2回ほどしか行えません。その間にもどんどんごみはたまっていきますが、ハワイの強い日差しにさらされています。また、これらのごみは日本から排出されて、およそ6500kmの距離を流れてきます。このときもまた、日光にさらされています。すると何が起こるかというと、日光に当たったプラスチックは劣化して、細かな破片となります。この非常に細かなプラスチック片は、もはや人の手で拾うことはできません」

この小さなプラスチック片が「マイクロプラスチック」、現在大きな問題となっている海洋ごみの一つだといいます。
マイクロプラスチックとは一般に、5mm以下の小さなプラスチックのことを指します。

 

「小さいプラスチックほど、プランクトンを主なえさにしているような小さな生物でも体内に摂取してしまいます。また、表面積が大きいために海中の有害物質を吸着する可能性が高くなります。マイクロプラスチックの問題は何よりも『小さすぎて回収ができない』こと、そして『今あるマイクロプラスチックは、何十年もかけて破片化したものである』ということです。つまり、今排出されたプラスチックのごみは、何十年もの時間をかけてマイクロ化していくのです」

問題の顕在化と対策、今なすべきこととは

「マイクロプラスチックは、とても身近なところにもあります。例えば、街中で見かける割れたカラーコーン。使われているときから紫外線を浴び、既にマイクロ化が進行しているのです。また、固いプラスチック製品だけでなく、化学繊維でできた漁網やロープ、洋服の繊維、それからメラミンスポンジの破片などもマイクロプラスチックであるといわれています」

工業用研磨剤や洗顔料に入れるスクラブ剤など、元々小さく作られている“一次的マイクロプラスチック”は、製造工程で使用をとりやめるなどの対策がとれますが、意に反してマイクロ化してしまった“二次的マイクロプラスチック”は、対策がとりにくいといいます。

 

「世界全体では、年間約4億トンのプラスチックがつくられていますが、そのおよそ半分は使い捨て用途。2012年の統計によると、日本では一人が年間に約75kgのプラスチックを使い、35kgのプラスチックごみを出しています。このペースでは、2050年までに海洋プラスチックごみの重量が海にいる魚の重量を超えるともいわれています」

 

こうした海洋ごみ問題を受けて、世界の国々は少しずつ認識を変え始めています。

 

「2015年のG7サミットでは、首脳宣言に『海洋のプラスチックごみが世界的課題であること』が明記され、対処のための行動計画が採択されました。日本では環境省の働きかけで、2030年までに使い捨てプラスチック排出量を25%減らすことを目標としています」

「しかし、今なお進行している破片化や回収したごみの再利用ができていないこと、漂着の被害を受けている人々や自治体への支援など、課題は山積みです。そのなかで私たちがなすべきことは、回収活動の促進と、ごみの発生を抑えること。個人の行動が変わることが何よりも重要だと考えています」

 

講演のおわりに、小島氏は「どんな海を未来に残したいですか」と問いかけました。

第二部: 日本プラスチック工業連盟/岸村専務理事と小島氏によるパネルディスカッション・質疑応答

続いての第二部は、日本プラスチック工業連盟・岸村専務理事と小島氏によるパネルディスカッションを行いました。(進行役:ESG推進室長 右田健)

岸村小太郎氏プロフィール

冒頭に、岸村専務理事より日本プラスチック工業連盟(以下、プラ工連)の活動内容についてご紹介がありました。

 

「我々の活動の一つは、プラスチックのメリットを適切に伝えていくこと。冊子を作成・配布するなど、啓蒙や教育活動にも力を入れています。 海洋プラスチック問題への取組は、工業者向けには『樹脂ペレットの漏出防止』を依頼するとともに、実施状況を継続的に調査しています。また、環境NPOへの支援やクリーン活動への参加も行っています」(岸村氏)

ディスカッションでは、出席者からの質問に対して回答をいただきました。

─プラスチックは外部不経済というか、外に出てしまったものはごみとして「あとは知らない」というところで、マナーの問題もあるのかもしれないが、小島さんのおっしゃった「価値のあるものだから大事に使うべきだ」という言葉が印象的でした。政府や国際ネットワークで働きかけをされていると思いますが、どんなところで手応えのようなものを感じられますか?

 

「今年改正された『海外漂着物処理推進法』として知られる法律。これは海のごみに関する日本初の法律で、JEANと、漂着物に困っているいくつかの自治体との活動の成果です。まだ方針を示したのみで、計画や実施はそれぞれの海岸を有する都道府県が行うものとされていて、これからという状態ではありますが……。しかし、海洋ごみ問題が共通認識になりつつありますので、今後は各地域での協議の場にも企業や業界の方に関わっていただき、一緒に考えていくことが必要になると思います」(小島)

─漁の際に網に引っかかったごみは産廃として漁師さんが費用を負担して捨てることになるというお話でしたが、漁師さんはきっとそのまま海にリリースしてしまうのではと思うのですが、そこに補助金(ごみの買取など)があれば、少なくとも持ち帰って処理できるようになるのではと考えています。そういった取組はあるのでしょうか?

 

「漁業系の廃棄物の処理負担を軽減するための補助金制度は、日本では一部の漁協で、漁協がプールしているお金で『操業中に掛かったごみを再投棄せず持ち帰ると、その量によって現金で買い取る』という取組を行っているところがあります。韓国を例にとると、おそらく10年近く前から国費で買取をしています。これは漁業者の再投棄防止を目的とした取組ですが、本来廃棄物は捨てる人が費用を負担するものですから、漁業者だけを永遠に特別扱いすることはできません。ですから将来に向けて、漁業者への教育をスタートしています。環境NGOと研究者が『海にごみがないほうが漁業にとってよいことである』と知ってもらうための教育プログラムを作っています」(小島)

-プラスチックは日本ではサーマルリサイクルが多く、CO2問題とも深く関わっています。リサイクルすればよいというだけの問題ではないと思いますが、いかがでしょうか。

 

「なぜこれだけ焼却の割合が高いのかというと、日本の限られた国土の問題や急速に増えた廃棄物処理の問題などがあるので、いきなりサーマルリサイクルをゼロにするのはなかなか難しいかなと思っていますが、いかにその数字を小さくしていくかが重要であると考えます」(小島)

 

「プラ工連も以前は『サーマルリサイクルでよい』という考えでしたが、今は方向性を変えつつあります。先日発表したプラスチック資源循環戦略の基本的な考え方では、再生材としての利用促進をめざし、新規事業の創出につとめることを記載しています。一般的にプラスチックはリサイクルすると劣化します。ですが最近、リサイクル業者の方から、新しい市場の開拓をしていることを聞くようになりました。今までまったくプラスチックが使われていなかったところでは、まだまだ市場として伸びるのではと希望を感じます。また、我々プラ工連としても、彼ら(業者)は中小企業が多いので、設備面やマーケット力が弱いのがネックです。そこで規模の大きい企業との橋渡しをしていきたいと思います」(岸村)

―私は営業職として軟包材(レトルトやスナック袋のフィルム)の接着剤を販売しています。プラスチック製品にサーマルリサイクルが多い理由としては、フィルムが複層(異なる素材を何層にも重ねていること)であることも関わっていて、そのままでは燃やすしかありません。そこで、今私がいる軟包材業界では「モノマテリアル化」を進めています。それに対応する化学物質も開発しているところです。

 

「モノマテリアル化、非常に歓迎したいです。ずいぶん前に、マヨネーズのチューブが5層でできているとか、ヨーグルトの容器が4層からなっていると聞いて、『1枚のプラスチックじゃないの!?』と非常に驚いたことがあります。ですから今ご説明いただいたように、リサイクルが厄介であるということも承知していました。その点も、日本の技術力に期待したいですね」(小島)

「複合素材はリサイクルが難しい・できないと言われていますが、プラ工連はいろんなリサイクラーとお付き合いやバックアップをしています。その一部には『複合素材もリサイクルできる』というところもあります。また、ある日用品メーカーさんでは、詰め替え用の包装で複合素材を使用されていますが、リサイクラーと組んでこれらの素材を再生し、子ども向けのブロック玩具を作っているそうです。モノマテリアル化するという方向もありますし、複合素材も必要なところはありますから、それもリサイクルするということができればいいなと思いますね。プラ工連としても、リサイクラーと樹脂メーカーが連携して、複合素材をリサイクルして何か作れないか、と考えています」(岸村)

―環境団体からはリデュースをしたいというお話が出ることが多いと思います。つまり生産量を減らすということですが、プラスチックをつくるという企業をまとめている岸村さんとしては、全体量が減っていくということに対しては「歓迎」でしょうか?リデュースという考え方と、プラスチック業界が今後めざしていくべきところとは?

 

「リデュースについて、例えば量が減ったとしても環境にやさしいとかリサイクルに向く製品を作って強化していくことを考えています。また、全国一律では無理かもしれませんが、特定の地域のプライベートブランドのように、多少価格が高くなっても買ってもらえる製品をつくることも考えられますね。そうすれば、製造する量は多少減っても、事業としてやっていけます」(岸村)(一部抜粋)

 

およそ40分で多くの質問が寄せられ、プラスチック工業を振興する立場である岸村氏と、プラスチックごみの低減を掲げる小島氏、それぞれの立場から回答いただきました。
いずれも海洋環境への思いは強く、「海洋ごみ問題の解消に向けて、プラスチックと上手に付き合い、活用する方法を模索する」という点において、両名ともに一致した意見でした。
今後、我々が生活者個人として何ができるのか、会社としてどのようなことができるのか、広い視野でもって貢献可能性を探っていきたいと思います。