安全・保安
重大事故防止
三井化学グループでは、「安全はすべてに優先する」という経営方針のもと、全グループを挙げて様々な安全活動に取り組んできました。しかしながら、2012年岩国大竹工場でレゾルシン製造施設爆発火災事故が発生しました。二度とこのような事故を起こさないよう抜本的安全対策をはじめとした再発防止に努めていきます。
経営トップの安全・保安に対する強いコミットメント
当社社長は、「安全の日」、「全国安全週間」等にて、「安全はすべてに優先する」という経営方針を三井化学グループ全社員に繰り返し発信しています。また、副社長、専務、生産・技術本部長等の当社幹部も、本体および国内外関係会社の生産拠点を訪問する等、現場の安全文化醸成に向けて積極的に関わっています。2020年度の実績は以下のとおりです。
- 新年挨拶会、期首講話で本社社員に安全最優先の直接訓示(国内拠点に同時中継)
- 安全の日に関連して、社長の安全訓話をグループ全体に発信(日本語、英語)
- 安全の日に本社で社員に直接訓示(国内生産拠点に事前撮影の録画配信)
- 全国安全週間に関連して、社長メッセージをグループ全体に発信(日本語、英語、中国語)
- 工場の社員に安全に関して直接訓示(新型コロナウイルス感染防止を考慮し、リモートで実施)
- 社内報に、社長への安全インタビューを掲載
安全の日
三井化学はレゾルシン製造施設爆発火災事故を風化させないために、4月22日を「安全の日」に制定し、例年「安全を誓う式」や講演会を開催しています。2020年度は行事内容を縮小しましたが、2021年度はWeb会議システムの活用など、新型コロナウイルス感染防止対策を実施して、各拠点で行事を開催しました。
「安全を誓う式」では、社長の安全訓話を当社グループ全体に向けて発信し、「安全はすべてに優先することを、心に刻んで行動する」ことを全員で誓い合いました。また拠点ごとに講演会の開催や、社長、工場長の訓話を伝達する等、安全最優先を改めて発信しました。


抜本的安全対策
三井化学は、2012年4月22日に発生した当社岩国大竹工場レゾルシン製造施設爆発火災事故を厳粛に受け止め、全社の安全・保安の確保に関わる問題点を徹底的に見直し改善するために、抜本的安全対策への取り組みを開始し8年が経過しました。多くの議論を重ねて展開してきた諸施策は日常的活動に落とし込まれ、PDCAをまわしながら活動を継続しています。抜本的安全対策は、安全レベルのさらなる底上げにつなげるべく、メリハリをつけながら今後も継続して推進していきます。
抜本的安全対策推進の全体像
抜本的安全対策は、2013年の開始以降、下図に示す全体像を構築し、全社を挙げて取り組んでいます。
抜本的安全対策のポイント
- 社長以下で構成するステアリングコミッティ※1で全社課題を議論し活動を方向付け
- 経営層を筆頭に本社組織の工場訪問機会を増やし、積極対話で安全に関与
- 社外有識者の方々等の第三者によるご指摘を工場運営に反映
- 工場長による安全対話や安全アドバイザー※2による工場横断的な安全活動点検
- 課長主催の班長会議等の場で意思疎通強化
- 協力会社の安全管理への関与強化
※1ステアリングコミッティ:
「抜本的安全」を速やかに進行させるために、図に示すメンバーが一同に会し、全体課題を議論し、活動の方向付けを行う場のこと。
※2安全アドバイザー:
日々の活動に入り込み、意見交換を通じて工場全体の安全レベル向上を担うベテラン社員。

抜本的安全対策の進捗
抜本的安全対策は3つの重点課題を11項目の方策に展開し、安全技術が伝承される仕組みの構築、技術評価システムの改善強化、工事協力会社を含む工事安全管理の強化、並びに、それらのライン管理者への教育も徹底して進めてきました。2020年度は、ライン管理者へのリーダーシップ教育を課長層から係長層にまで対象を広げることで強化するとともに、2018年に大阪工場で発生した定期修理工事中の煙突火災事故を受け実施した工事管理体制の見直しの水平展開が、各工場の現場で確実に運用されているかを安全・環境部が確認することで組織機能のさらなる強化に取り組みました。

重点3課題、11方策 | 実行スケジュール(年度) | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | ||
(1) ライン管理者が現場に集中し、しっかりとマネージメントができること | |||||||||
① | ライン管理者の業務負荷軽減 | ![]() |
継続 | 強化 | ![]() |
![]() |
![]() |
||
② | ライン管理者の育成 (責任と権限の明確化) | ![]() |
![]() |
継続 | 強化 | ![]() |
![]() |
![]() |
|
(2) 技術力の向上と、技術伝承を確実に行えること | |||||||||
③ | 現場感覚を有するエンジニアの育成 | ![]() |
![]() |
継続 | 強化 | ![]() |
継続 | ||
④ | 安全技術が伝承されるシステムの構築 | ![]() |
![]() |
継続 | 強化 | ![]() |
![]() |
||
⑤ | 技術評価システムと体制の見直し | ![]() |
![]() |
継続 | 強化 | ![]() |
継続 | ||
(3) 安全最優先の徹底とプロ意識の醸成、業務達成感が得られること | |||||||||
⑥ | 安全・環境部の組織変更・機能強化 | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
継続 | 強化 | ![]() |
![]() |
⑦ | 「安全はすべてに優先する」の徹底 (基本徹底、診断) | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
⑧ | プロ意識の醸成と強化 (マニュアル全面改訂追加) | ![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
継続 | |||
⑨ | チーム力・職場内コミュニケーションの強化 | ![]() |
![]() |
![]() |
継続 | ||||
⑩ | 魅力ある上位職の設定 (人材委員会等) | ![]() |
継続 | ||||||
⑪ | 安全成績や業務での達成感獲得 | ![]() |
継続 |
リスクアセスメントの徹底
三井化学では、設備の新設・増設・改造時における安全性評価や、プラントの危険摘出にHAZOP※1を実施し、事故の未然防止に取り組んでいます。さらに、岩国大竹工場で発生したレゾルシン製造施設爆発火災事故の反省を受けて、非定常作業まで検討範囲を広げており、非定常リスクアセスメントの取り組みは、継続的かつ発展的なものとなっています。
リスクアセスメントのさらなる高度化を目指し、2020年度には定量的評価方法としてHAZOP-LOPA※2を大阪工場へ当社内で先行導入しました。今後、他工場へも展開を図っていきます。
当社は、引き続きリスクアセスメントの徹底を推進し自主保安の強化を目指します。
※1HAZOP:
Hazard and Operability Studies。正常からのずれを網羅的に想定し、ずれの原因、起こりうる影響を解析し、安全対策を検討する手法。
※2HAZOP-LOPA:
Hazard and Operability Studies-Layer of Protection Analysis。HAZOPで摘出されたひとつのリスク低減措置を独立防護層とし、独立防護層が突破される確率の積から結果 (火災、爆発等)の発生頻度[ /y]を求め、追加のリスク低減措置を決定する手法。
HAZOPリーダーの育成
HAZOPには解析のリーダーであるHAZOPリーダーの役割が重要になります。三井化学ではHAZOPリーダーを育成するため、製造部スタッフなどを対象に、全工場で解析手法や検討の考え方を演習形式で学ぶ研修会を実施しています。今後も研修会を計画的に実施し、HAZOPリーダーの育成とHAZOPのレベル向上を図っていきます。
非定常リスクアセスメントの取り組み
プラントの緊急停止時やスタートアップ時といった非定常作業は特に事故リスクが高いことから、重点的なリスクアセスメントを推進しています。2013年度には緊急停止時のリスクアセスメントを、2015年度にはスタートアップ時のリスクアセスメントをそれぞれモデルプラントで実施し、各工場に水平展開しました。その後も通常シャットダウン操作にも検討範囲を広げ、What-if※とバッチHAZOPを併用した評価方法にて検証を行っています。
※What-if:
「もし ... であるのであれば」という質問を繰り返すことにより、起こりうる影響を解析し、安全対策を検討する手法。
安全文化診断
三井化学グループは、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科および新潟大学と連携して安全文化診断を実施しています。この安全文化診断を通じて、職場の強み・弱みの見える化が可能です。また、階層別のあらゆるギャップについて職場内討議を重ねることで、職場のコミュニケーション向上ツールとしても活用しています。
2019年度までに三井化学5工場すべてが2回目の受診を終えました。1回目の評価で、安全文化の8軸モデル※1の内、相互理解(コミュニケーション)の指数が低かった工場においては、工場長による対話や各所属長によるコミュニケーションの工夫による改善活動を行い、その結果、2回目の診断では、評価指数が大幅に改善されました。この診断は、職場の安全文化を自己認識する上で有効であると判断しており、受診結果をふまえさらに改善を重ね、今後も定期的に受診することで、改善の成果を確認していきます。
※1安全文化の8軸モデル:
「動機付け(モチベーション)」、「組織統率(ガバナンス)」、「積極関与(コミットメント)」、「相互理解(コミュニケーション)」、「資源管理(リソースマネジメント)」、「作業管理(ワークマネジメント)」、「学習伝承(ラーニング)」、「危険認識(アウェアネス)」の8つの軸をもとに安全文化を評価。この安全文化の8軸モデルに基づいた、110問の設問への回答により、工場・職場の状況が見える化され、同時に業界のベンチマークと比較した強み・弱みがわかります。

安全文化診断の展開状況(~2020年度までの受診実績)
三井化学工場※ |
全5工場各2回目を受診済み。内、1工場の分工場は、3回目を受診済み。 |
---|---|
国内関係会社 | 9社(13工場)が受診済み。内、2社(3工場)は、2回目を受診済み。 |
海外関係会社 | 5社(5工場)が受診済み。 |
※三井化学工場の工場長がレスポンシブル・ケア運営の責任を持つ工場構内関係会社を含む。
保安力の第三者評価受診
三井化学グループは、継続的に保安力向上センターの保安力評価を受診しています。これは、主に石油・石油化学品を取り扱う製造業を対象に、安全基盤と安全文化の観点から保安力を評価するもので、保安力に関する強みや弱みが数値で見える化できます。保安力向上センターは、保安力評価を通じて、日本の化学産業の安全レベルの引き上げを目指しており、当社はその趣旨に賛同しています。
2018年度までに、大阪工場、市原工場、岩国大竹工場において、保安力の自己評価を実施した後に、保安力向上センターの1回目の評価を受診しました。2020年度には、市原工場が2回目の評価を受診しました。安全基盤および安全文化に関するこれまでの評価は、全般的に「良好なレベル」との判定を得ていますが、評価結果として確認された課題についてさらなる改善に取り組んでいます。特に保安防災に関するリスクアセスメントについては、さらに強化する必要があると考え、重点的に取り組んでいます。今後も、保安力向上センターによる評価を受診し、第三者からのアドバイスとして安全・保安活動に活かしていきます。

既存の高圧ガス設備の耐震性向上対策
三井化学は、2014年5月の経済産業省の通知を受けて、既存の高圧ガス設備についての耐震評価を実施しました。評価結果に基づき改修計画を策定し、2020年度をもって計画した耐震補強工事を完了しました。
先進技術を活用した安全・保安
三井化学グループは、先進的な技術を効果的に導入することにより、高効率で安全・安定な次世代工場を目指しています。2017年度には、AI、IoT、ビッグデータ解析、画像解析などの技術の導入を全社的に推進する部署として、生産技術高度化推進室を設置しました。現在は、プラントの状態を監視し運転を支援するオンラインシミュレータやソフトセンサ、AIを活用した設備の異常を検知するシステム、現場作業を支援するウェアラブルカメラ、タブレット、設備管理を支援する無線センサ、ドローン、高機能カメラなどの導入を各工場で進めており、その有効性を確認しています。今後も、日々進化し続ける先進技術の導入を通じて、運転と保全を変革し、生産技術力を強化することにより、さらなる安全・安定運転に貢献していきます。
取り組み事例



高圧ガススーパー認定事業所の認定取得
三井化学大阪工場は2021年3月、経済産業省が制定する特定認定事業者制度※1における特定認定事業者(通称:スーパー認定事業所)に当社として初めて認定されました。この認定制度では、先進技術の導入やリスクアセスメント、従業員等への教育・訓練について従来の認定制度に比べて高レベルな取り組みを求められており、それらの取り組みの継続的改善により自主保安力を強化するものです。
大阪工場の場合、HAZOP-LOPAの導入にともなうリスクアセスメントのレベル向上や先進技術の積極的な導入検討などの取り組みが高く評価され認定につながりました。今後、市原工場も2022年6月の認定取得を目指し、取り組みを進めていきます。
※1特定認定事業者制度:
経済産業省が2017年4月より開始した制度であり、特に高度な保安の取り組みを行っている事業所を「スーパー認定事業所」として認定し、認定を受けた事業者は、自主保安における設備の検査方法、点検周期などの自由度が高まるものです。それにより国際的な競争力の強化にもつながります。