サーキュラーエコノミーに向けて
TCFD提言への対応
三井化学グループは2019年1月、TCFD提言に賛同を表明し、気候変動への取り組みを開示しています。今回、気候関連リスクの重要性評価、事業影響の定量化の対象事業分野を全事業本部に広げ、見直しを行いました。
開示項目1:ガバナンス
気候変動対応の責任者は、ESG推進委員会担当役員です。
気候変動対応に関する方針・戦略・計画は、ESG推進委員会にて討議します。討議結果は経営会議に報告し、特に重要な事項については、全社戦略会議での討議や経営会議での審議を経て、取締役会にて決定、監督されます。
さらに、ESG推進委員会の下にサーキュラーエコノミーCoEを設置しています。サーキュラーエコノミーCoEはステアリングコミッティと3つのワーキンググループ(バイオマス、リサイクル、気候変動)から成り、気候変動に関するより詳細な議論を行い、経営層が討議すべき案件をESG推進委員会に挙げる仕組みとなっています。
開示項目2:リスク管理
当社グループは、全社のリスク管理体制を定めており、気候関連リスクもこの体制内で管理しています。
とりわけ気候関連リスクについては、VISION 2030およびカーボンニュートラル戦略におけるリスク管理の一環として、全社リスク管理体制のもと、全部門がリスクの洗い出し、評価を行い、全社で一括管理されています。対応策の検討・実行に関しては、予算や中期経営計画に反映し、PDCAを回しています。
開示項目3:戦略
当社グループは、気候変動によって生じるリスクと機会を把握するため、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)シナリオ(IPCC RCP8.5)、IEAのWorld Energy Outlookの2022年版NZE2050を参考に、シナリオ分析を進めています。また、分析結果を低炭素社会への移行計画であるVISION 2030およびカーボンニュートラル戦略に反映し、活動しています。
(1)シナリオの範囲の特定および決定
気候変動に伴う当社の事業環境変化を予想して、想定される世界観(シナリオ)を作成しました。
3~4℃の世界 (異常気象対応が必要な世界) | 1.5~2℃の世界 (脱炭素社会の実現を最優先とする世界) |
---|---|
現時点での気候変動政策のみ実施
| 野心的な気候変動政策を実施
|
化石資源に依存する社会
| サーキュラーエコノミー社会
|
異常気象による自然災害が激甚化
| 異常気象による自然災害が甚大化
|
3~4℃の世界 (異常気象対応が必要な世界) |
---|
現時点での気候変動政策のみ実施
|
1.5~2℃の世界 (脱炭素社会の実現を最優先とする世界) |
野心的な気候変動政策を実施
|
(2)事業影響の定量化
カーボンニュートラル戦略を含むVISION 2030に向けた脱炭素化施策を実行していく場面において、想定されるインパクトを定量的に見積もりました。
全社グループのリスク
リスク区分 | 事象 | インパクト算出対象 | 算出の考え方 | インパクト | |
---|---|---|---|---|---|
中期 (2030年) | 長期 (2050年) | ||||
3~4℃の世界 | |||||
物理的リスク | 自然災害の激甚化 | 河川・沿岸洪水発生による生産拠点の被害増加 | 発生確率を考慮した、洪水による生産拠点の資産被害額を算出※1※2※3 | △50億円 | △400億円 |
1.5~2℃の世界 | |||||
移行リスク | 法規制強化 | 炭素税導入に伴うコスト増加※4 | 脱炭素化施策を講じない場合のコスト増加を算出 | △900億円 | △1,600億円 |
脱炭素化施策を講じる場合のコスト増加を算出※5 | △670億円 (GHG排出量削減率(Scope1+2)2013年度比:40%) | 0円 (GHG排出量削減率(Scope1+2):100%) | |||
市場変化 | 燃料・電力のコスト上昇 | 価格上昇率から燃料・電力コストを算出※6※7 | △600億円 | △700億円※2040年 |
※1 2020年度を基準とする。
※2 操業の影響は含まない。今後検討予定。
※3 参照:IPCC RCP8.5
※4 予想炭素価格(IEA NZE2050参照)と2021年度のGHG排出量を基準として炭素税額を算出。
※5 2030年までのカーボンニュートラル戦略に関連する投資額は1,400億円と試算している。
※6 2018年度の燃料および電力コストを基準とする。
※7 参照:IEA WEO、EIAおよび資源エネルギー庁予測
全社グループの機会
機会区分 | 事象 | インパクト算出対象 | 算出の考え方 | インパクト | |
---|---|---|---|---|---|
中期 (2030年) | 長期 (2050年) | ||||
3~4℃の世界 | |||||
移行機会 | 適応に寄与する製品・サービスの需要増加 | 防災・減災、感染症拡大防止に貢献するRose Value®製品の売上収益増加 | 非財務指標として設定※1※2 | Rose Value®製品売上収益比率 40% | - |
1.5~2℃の世界 | |||||
移行機会 | 緩和に寄与する製品・サービスの需要増加 | GHG排出量の削減に貢献するBlue Value®製品の売上収益増加 | 非財務指標として設定※3※4 | Blue Value®製品売上収益比率 40% | Blue Value®製品売上収益比率 70% |
※1 2022年度 Rose Value®製品実績:売上収益 3,900億円、売上収益比率 21%
※2 参照:当社グループのVISION 2030
※3 2022年度 Blue Value®製品実績:売上収益 4,100億円、売上収益比率 22%
※4 参照:当社グループのVISION 2030
事業本部ごとのリスク・機会
1.5~2℃の世界、3~4℃の世界、およびシナリオに依存しない市場環境において、関連する市場の変動を考慮し、事業のリスクと機会について整理しました。
凡例 | Blue Value®製品に関連する機会 |
Rose Value®製品に関連する機会 | |
リスク |
関連する市場の変動項目 | リスクと機会 |
---|---|
3~4℃の世界 | |
①食品安定供給 | 農薬原体の創出、海外事業の拡大 |
②インフラ長寿命、防災・減災 | 国土強靭化:不織布のグリーンインフラ需要拡大 |
③公衆・衛生 | マラリア撲滅: 媒介蚊の新規防除剤の開発・拡販 |
高機能の抗菌・防カビ剤の提供 | |
パンデミックによる衛生材(マスク、ガウン)の需要拡大 | |
感染症流行防止への簡便な検査・診断ニーズおよび需要拡大 | |
1.5~2℃の世界 | |
①サプライチェーンにおける環境負荷低減 | 植物由来の原料を使用したレンズ材料(Do Green™)の需要拡大 |
高活性バイオ触媒(アクリルアマイド他)の拡販 | |
軽量化需要:中空薄肉化製品(エアリファ®) | |
リサイクルビジネスの確立、リサイクル対応製品の開発 | |
(参考)シナリオに依存しない市場環境 | |
①新興国での経済成長、人口増加、ライフスタイルの都市化・健康志向 | 高屈折率メガネレンズ材料のさらなる普及(MR™) |
口腔ケア・口腔診断の需要拡大 | |
オムツの需要拡大 | |
医療の質向上/健康寿命の延伸:新事業(整形外科、検査・診断、核酸医薬CDMO、ニュートリション)への参入 | |
②モビリティの市場変化 | − |
③環境影響への配慮 | 天然物農薬の需要拡大 |
3Dプリンタ関連製品による、歯科用技工物製作での廃棄物削減/省力化 | |
リスク・機会に対する方策 | |
− | 市場変化や需要拡大に対応するための生産供給能力向上 |
グローバルでのサプライチェーンのさらなる強靭化 | |
社会課題の解決につながる新製品・新事業創出 | |
財務情報 | |
Rose Value®製品 売上収益比率 | 82%(2022年度) 85%(2030年度目標) |
強みのある事業 (2022年度情報) | メガネレンズモノマー:世界シェア45%(市場成長:年率3%) |
農業化学品:売上収益目標1,800億円(2030年度) | |
財務目標(2030年度コア営業利益) | 900億円 Rose Value®製品が大きく貢献 |
関連する市場の変動項目 | リスクと機会 |
---|---|
3~4℃の世界 | |
①食品安定供給 | − |
②インフラ長寿命、防災・減災 | コンクリート表面強化剤の需要拡大 |
③公衆・衛生 | − |
1.5~2℃の世界 | |
①サプライチェーンにおける環境負荷低減 | 再生可能エネルギー用部材の需要拡大(高耐久タフマー®) |
塗装工程削減貢献製品の需要拡大(PPコンパウンド) | |
再生可能原料を活用した製品化 | |
リチウムイオン電池部材需要拡大 | |
EVの航続距離延伸に貢献する車体軽量化における素材開発需要拡大(高剛性・軽量PP) | |
E-Axleの需要拡大 | |
脱炭素化施策にかかるコストの価格転嫁が困難 | |
EVへの移行によるガソリン車用部材の需要減少 | |
(参考)シナリオに依存しない市場環境 | |
①新興国での経済成長、人口増加、ライフスタイルの都市化・健康志向 | 移動空間としての快適性向上に貢献する車室空間等のモジュールコンセプトの開発 |
新車製造台数の減少 | |
②モビリティの市場変化 | − |
③環境影響への配慮 | − |
リスク・機会に対する方策 | |
− | 市場変化や需要拡大に対応するための生産供給能力向上 |
グローバルでのサプライチェーンのさらなる強靭化 | |
財務情報 | |
Blue Value®製品 売上収益比率 | 54%(2022年度) 80%(2030年度目標) |
強みのある事業 (2022年度情報) | PPコンパウンド:世界2位、アジア2位 |
バンパー、インパネ等の軽量化、無塗装化 | |
電池用各種部材用原料 | |
財務目標(2030年度コア営業利益) | 800億円 Blue Value®製品が大きく貢献 |
関連する市場の変動項目 | リスクと機会 |
---|---|
3~4℃の世界 | |
①食品安定供給 | 工場型農業化によるICT製品の需要拡大(半導体部品・ガス透過性フィルム) |
②インフラ長寿命、防災・減災 | 太陽光パネル、定置用電池のニーズ拡大による、関連部材の需要拡大(ミレット®、ソーラーエース™等) |
飲み水用フィルター需要拡大(ミペロン®) | |
③公衆・衛生 | − |
1.5~2℃の世界 | |
①サプライチェーンにおける環境負荷低減 | 環境対応包材の需要拡大(コーティング材、プラスチックの紙代替) |
水平リサイクル(モノマテリアル包材) | |
EV用電池&半導体需要/機能向上 | |
(参考)シナリオに依存しない市場環境 | |
①新興国での経済成長、人口増加、ライフスタイルの都市化・健康志向 | 半導体・実装ソリューション市場拡大 |
イメージングソリューション:スマホ、XR市場の拡大 | |
②モビリティの市場変化 | 車載レンズ/センサー/高周波材料の需要拡大 |
③環境影響への配慮 | − |
リスク・機会に対する方策 | |
− | ソリューション型ビジネスへの移行 |
財務情報 | |
Blue Value®製品 売上収益比率 | 40%(2022年度) 56%(2030年度目標) |
Rose Value®製品 売上収益比率 | 53%(2022年度) 60%(2030年度目標) |
強みのある事業 (2022年度情報) | イクロステープ™:世界シェア1位(市場成長:年率7%) |
アペル®環状オレフィンコポリマー:世界シェア1位(50%超) | |
ペリクル:世界シェア1位(市場成長CAGR 2019-2027 9%) | |
財務目標(2030年度コア営業利益) | 700億円 Blue Value®、Rose Value®製品が大きく貢献 |
関連する市場の変動項目 | リスクと機会 |
---|---|
3~4℃の世界 | |
①食品安定供給 | 食品の品質維持に資する包装材原料需要拡大 |
②インフラ長寿命、防災・減災 | ポリエチレン配管等の原料需要拡大 |
③公衆・衛生 | − |
1.5~2℃の世界 | |
①サプライチェーンにおける環境負荷低減 | EVの航続距離延伸に貢献する車体軽量化における素材開発需要拡大(高剛性・軽量PP、ウレタン材料) |
環境対応包材の需要拡大 | |
脱炭素化施策にかかるコストの価格転嫁が困難 | |
EV用リチウムイオン電池部材需要拡大 | |
EVへの移行によるガソリン車用部材の需要減少 | |
(参考)シナリオに依存しない市場環境 | |
①新興国での経済成長、人口増加、ライフスタイルの都市化・健康志向 | ICT・モビリティ関連製品の市場拡大:フォトレジスト、液晶用原材料 |
移動空間としての快適性向上に貢献する車室空間等のモジュールコンセプトの開発 | |
新車製造台数の減少 | |
②モビリティの市場変化 | − |
③環境影響への配慮 | − |
リスク・機会に対する方策 | |
− | 成長事業への確実な原料供給 |
グリーンケミカル製品への対応強化 | |
高付加価値品の提供拡大 | |
財務情報 | |
Blue Value®製品 売上収益比率 | 6%(2022年度) 12%(2030年度目標) |
強みのある事業 (2022年度情報) | バイオマス原料による誘導品の製造、高度リサイクルの技術開発 |
他事業本部へグリーン化した素材の提供 | |
本州化学工業とのシナジー効果 | |
財務目標(2030年度コア営業利益) | 500億円 |
リスクの最小化に向けて
- 「自然災害の激甚化」による中期的な資産被害額はさほど大きくないが、今後は操業の影響まで含めたインパクト評価を行った上で、必要に応じてVISION 2030の基本戦略である「経営基盤・事業基盤の変革加速」に組み込み、対応していく。
- 「炭素税導入に伴うコスト増加」および「燃料・電力のコスト上昇」による事業インパクトは、中長期的に大きくなるとみており、カーボンニュートラル戦略の施策として2030年度までに原燃料の脱炭素化、省エネルギーの促進、再生可能エネルギーの導入を進める。また、さらなる検討によりGHG排出量の確実な削減を推進していく。
- 当社グループが試算した2030年までのカーボンニュートラル戦略に関連する投資は1,400億円だが、施策を講じない場合は年間900億円の炭素税負担が見込まれるため、その削減効果に十分見合った投資額と考える。
機会の最大化に向けて
- 今回のインパクト評価において、Blue Value®・Rose Value®製品につながる多くの機会を抽出した。今後、全社戦略に反映し、持続可能な社会構築に貢献するとともに、当社グループの機会のさらなる獲得につなげる。
- GHG排出量削減は、当社グループの収益拡大に深く関連するため、公表済みのカーボンニュートラル戦略施策の実行にとどまらず、さらなる検討を継続し、追加していく必要がある。
- 原料調達先、生産拠点の複数化によるグローバルなサプライチェーンのさらなる強靭化、また、市場変化やニーズに対応するための生産供給能力向上 に取り組み、確実に機会を獲得していく。
- 表に記載の機会の獲得は当社グル-プの成長につながるため、VISION 2030の経営目標(非財務目標)として設定し、進捗管理を行っていく。
レジリエンス性の向上
- 今回のシナリオ分析の結果、1.5~2℃の世界、3~4℃の世界に対する戦略のレジリエンスを検証できた。今後さらにインパクト評価の精度を高めていく。
- 事業戦略、拠点戦略を含む全社戦略において、当社グループのリスクの最小化、機会の最大化を目指し、当社グループのレジリエンス性の向上を図っていく。
開示項目4:指標と目標
当社グループは気候関連リスク・機会の管理に用いる指標および目標を設定しています。これらをVISION 2030の非財務 指標および経営目標として位置付け、進捗を管理しています。
この表は横にスクロールできます。
区分 | 指標 | 2022年度 実績 | 目標 (2030年度) | 目標 (2050年度) | |
---|---|---|---|---|---|
緩和 | GHG排出量削減(Scope1+2) | GHG排出量削減率(2013年度基準) | 27% | 40% | 100% |
GHG削減貢献量の最大化 | Blue Value®製品売上収益比率 | 22% | 40% | 70% | |
適応 | 防災減災、感染症予防への貢献 | Rose Value®製品売上収益比率 | 21% | 40% | - |
また、気候関連指標カテゴリーに沿った情報は次の通りです。
(1)GHG排出量 |
|
---|---|
(2)移行リスク | 「開示項目3 戦略」に記載 |
(3)物理的リスク | 「開示項目3 戦略」に記載 |
(4)気候関連の機会 | 「開示項目3 戦略」に記載 |
(5)資本配備 |
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(6)インターナルカーボンプライシング(ICP) | 15,000円/t-CO2eと設定し、大型投融資においてICPを考慮したIRR(c-IRR)を判断材料として使用している。 |
(7) 報酬 |
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※1 三井化学単体
※2 提携・M&A・財務支援などを除く。決裁年度:2023~2025年度