サーキュラーエコノミーに向けて
TCFD提言への対応
三井化学グループは、2019年1月にTCFD※の提言への賛同を表明し、化学企業として気候変動に真摯に向き合い、事業に影響する機会・リスクへの理解を深化させ、その取り組みの開示に取り組んでいます。
2019年度から2021年度にかけて、提言への初期対応として次のように取り組みを進め、開示を行ってきました。これを踏まえた上で2022年度からは、2021年10月の改定提言への対応も含め、TCFDの開示項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った積極的な開示に努めていきます。

※TCFD:
金融安定理事会によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォース。2017年6月、気候変動の影響を金融機関や企業、政府などの財務報告において開示することを求める提言を公表した。
TCFD提言への初期対応(~2021年度)

1. 気候関連リスクの重要性評価
当社グループの主要事業のうち、気候変動の影響を受けやすい事業分野を選定し、移行リスク・物理的リスクおよび機会を洗い出し、発生の可能性、事業インパクト(人的損失、財務的インパクトなど)をふまえ、国際的な議論の動向、展開地域、他社事例なども考慮した上で特に重要なリスク・機会を抽出しました。
評価結果(▲リスク、●機会)
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評価項目 | 共通 | 事業分野別 ① モビリティ、② 石化原料、③ 農業、④ ヘルスケア、⑤ 電気電子、⑥ 包装、⑦ エネルギーソリューション |
|
物理的 リスク/機会 |
急性 | ▲ 風水災(洪水・暴風雨)によるリスクの上昇 | |
慢性 | ▲ 潮位上昇(高潮)によるリスクの上昇 ▲ 利用可能な淡水不足によるリスクの上昇 |
▲● 農作適地変化と新たな農業技術開発 ③ ▲● 害虫、雑草、細菌類の分布拡大 ③ ▲● 気候変動による感染症の流行拡大 ④ |
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低炭素社会移行 リスク/機会 |
政策および 法規制 |
▲ 炭素価格導入、上昇によるリスク ▲ 訴訟リスクの増加 |
▲● EVシフトによる事業への影響 ①⑤ ▲ 合成化学肥料の使用規制 ③ |
技術 | ▲● 再生可能エネルギーの普及 ▲● CCU技術、高度化リサイクル技術の開発加速 |
▲● バイオマスプラスチックの普及 ①②⑥ ▲ 低GHG排出技術への移行加速 ②⑤⑥ |
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市場 | ▲● サーキュラーエコノミーの普及 ▲● 再生可能原材料への転換 ▲ 再生可能エネルギー使用へのメーカー要請 ▲ EVシフト、水素社会の低炭素移行による希少資源価格上昇 |
▲ ライドシェア、カーシェアの増加などによる自動車製造・販売量の減少 ① ▲ 石油生産量の低下によるナフサの不足 ② ▲● 再生可能エネルギーの需要増加 ⑦ |
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評判 | ▲ 投資家によるアプローチ増加 |
*外部情報として、IPCC_RCP2.6、RCP8.5、IEA_B2DS、SDS等を活用。
2. シナリオの範囲の特定および決定
シナリオ:「3~4℃の世界」と「1.5~2℃の世界」を選定。
対象事業分野全事業分野(ただし、財務、GHG排出に大きく影響する以下の分野を優先)
モビリティ事業
✔ 将来の売上収益・コア営業利益に大きく寄与
✔ 製品のライフサイクル全体において気候変動に大きく影響

石化原料事業
✔ 製品製造に欠かせない原燃料、エネルギー(電力)に関わる
✔ 自社でのエネルギー生成、製品製造が当社GHG排出量の約75%を占める

対象期間現在から2050年まで(物理的リスク・機会については2100年までの情報も考慮)
※外部情報として下記を活用
低炭素移行情報:IEA SDS、2DS、B2DS、NZE2050、The Future of Petrochemicals
物理的情報:IPCC RCP2.6、RCP8.5
想定される世界
3~4℃の世界
経済活動優先で
脱炭素移行は消極的
◆ 現時点での気候変動政策のみ実施
◆ 炭素税導入
◆ 化石エネルギー、原料の需要拡大
- 石炭、ガス、石油価格上昇
- 化石燃料由来電力価格上昇
◆ 異常気象による自然災害が激甚化
◆ GHG排出量が約1.3倍に増加(2050年)
1.5~2℃の世界
脱炭素社会の実現が最優先
◆ 野心的な気候変動政策を実施
- 炭素税率大幅アップ
- ICE販売中止、EV化
◆ エネルギー、原料の脱炭素化
- 再生可能エネルギーの主流化
- リサイクルによる化学品節約
- バイオ、CO2原料からの化学品製造
◆ 自然災害は徐々に甚大化
◆ カーボンニュートラル実現(2050年)
3. 事業影響の定量化
想定シナリオ (「3~4℃の世界」、「1.5~2℃の世界」)におけるリスクおよび機会に関する事象のインパクト評価を行い、当社グループにとって影響の大きい事業インパクトを特定しました。
特定した事業インパクト(定性)
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シナリオ | 事象 | 事業インパクト(▲リスク、●機会) |
3~4℃の世界 | 自然災害の激甚化 | ▲ 河川、沿岸洪水発生による生産拠点の被害増加(資産損傷、操業率低下、サプライチェーン寸断等) |
温暖化適応製品の需要増加 | ● Rose Value®製品(防災減災対応、感染症予防等への貢献)の売上増加 | |
1.5~2℃の世界 | 脱炭素社会に向けた法規制強化 | ▲ 炭素税導入にともなう、化石由来原燃料の課税による製造コスト増加および収益悪化 |
● 炭素税等の法規制先取り対応による収益悪化回避および法規制対応製品の売上増加 | ||
脱炭素移行にともなう市場変化 | ▲ 化石由来燃料の消費量減少にともなう、ナフサ生産量減少による原料コスト増加 | |
● バイオマス原料・非化石燃料・再生可能エネルギー利用による、バリューチェーンでのGHG削減に貢献するBlue Value®製品の売上増加 | ||
サーキュラーエコノミーの拡大加速 | ● 求められるリサイクル(マテリアル、ケミカル)・CCUS技術導入による新たなビジネス機会の創出 | |
ステークホルダーからの要請対応 | ▲ 顧客・投資家からのGHG削減要請への対応不十分による評価低下および投資獲得機会の減少 | |
● 気候変動対応(戦略、進捗)の積極的な情報開示による企業価値向上および投資獲得機会の増加 |
4. 潜在的な対策の特定
想定シナリオにおける事業インパクト評価結果を考慮し、VISION 2030にカーボンニュートラル戦略を組み込みました。
TCFD開示項目
①ガバナンス
気候変動対応の責任者は、ESG推進委員会担当役員です。
気候変動対応に関する方針・戦略・計画は、ESG推進委員会にて討議します。討議結果は経営会議に報告し、特に重要な事項については、全社戦略会議での討議や経営会議での審議を経て、取締役会にて決定、監督されます。さらに、2022年4月にESG推進委員会の下にサーキュラーエコノミーCoEを新設しました。サーキュラーエコノミーCoEはステアリングコミッティと3つのワーキンググループ(バイオマス、リサイクル、気候変動)から成り、気候変動に関してより詳細な議論を行い、経営層で討議するべき案件がESG推進委員会に挙がる仕組みとなっています。
取締役会における気候変動関連の議題(2021年度)
- VISION 2030の設定(2021年5月)
- カーボンニュートラルロードマップ(2021年5月)
- VISION 2030の非財務指標設定(2022年2月)
サーキュラーエコノミーに向けて マネジメントシステム>体制・責任者
②リスク管理
当社グループは、全社のリスク管理体制を定めており、各部門はリスクモデルや手順書に基づきリスク評価を行い、リスクの種類および重要度に応じて、全社戦略会議およびESG推進委員会等の各委員会にリスク情報を報告します。各会議体ではリスク対応について討議を行い、各部門に対して方針の周知あるいは助言を行います。経営会議には、経営判断の材料となる全社のリスクが集約され、対応方針が討議決定されます。気候関連リスクもこの体制内で管理することを基本としています。とりわけ気候関連リスクについては、VISION 2030およびカーボンニュートラル戦略におけるリスク管理の一環として、全部門において短中長期課題(リスク、機会)の抽出と対応策検討・実行を予算化することを義務化し、全社で一括管理しています。抽出した重要な気候関連リスクは、サーキュラーエコノミーCoE内で議論され、必要に応じてESG推進委員会等の議題となり、全社のリスク管理体制に組み入れられます。
③戦略
当社グループはVISION 2030およびカーボンニュートラル戦略が低炭素経済への移行計画に該当すると考えています。2021年度までに特定した事業インパクトについて、カーボンニュートラル戦略を含むVISION 2030に向けた施策を実行していく場面において発生すると考えられるインパクトを定量的に見積もりました。
▲リスク
3~4℃の世界
リスク区分 | 事象 | インパクト算出対象 | 算出の考え方 | インパクト | |
---|---|---|---|---|---|
中期 2030年 |
長期 2050年 |
||||
物理的リスク | 自然災害の激甚化 | 河川・沿岸洪水発生による生産拠点の被害増加 | 発生確率を考慮した、洪水による生産拠点の資産被害額を算出。 ※ 2020年度を基準とする。 ※ 操業の影響は含まない。今後検討予定。 ※ 参照シナリオ:IPCC RCP8.5 |
50億円 | 400億円 |
1.5~2℃の世界
リスク区分 | 事象 | インパクト算出対象 | 算出の考え方 | インパクト | |
---|---|---|---|---|---|
中期 2030年 |
長期 2050年 |
||||
移行リスク | 法規制強化 | 炭素税導入に伴うコスト増加 | 予想炭素価格から炭素税額を算出。 ※ 2020年度のGHG排出量を基準とする。 ※ 参照シナリオ:IEA WEO |
800億円 | 1,600億円 |
市場変化 | 燃料・電力のコスト上昇 | 価格上昇率から燃料・電力コストを算出。 ※ 2018年度の燃料および電力コストを基準とする。 ※ 参照シナリオ:IEA WEO、EIAおよび資源エネルギー庁予測 |
600億円 | 700億円 ※ 2040年度 |
リスクの最小化に向けて
物理的リスクについては、「自然災害の激甚化」による中期的な資産被害額はさほど大きくないですが、今後は操業の影響まで含めてインパクト評価を行った上で、必要に応じてVISION 2030の基本戦略である「経営基盤・事業基盤の変革加速」に組み込み、対応していきます。
移行リスクについては、「炭素税導入に伴うコスト増加」および「燃料・電力のコスト上昇」による事業インパクトは、中長期的に大きくなるとみています。カーボンニュートラル戦略の施策として2030年度までに原燃料の低炭素化、省エネ促進、再エネ導入を進めるなど、GHG排出量の確実な削減を推進していきます。
● 機会
3~4℃の世界
機会区分 | 事象 | インパクト算出対象 | 算出の考え方 | インパクト | |
---|---|---|---|---|---|
中期 2030年 |
長期 2050年 |
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移行機会 | 適応製品の需要増加 | 防災減災、感染症拡大防止に貢献するRose Value®製品の売上収益増加 | 非財務指標として設定。 ※ 2021年度Rose Value®製品実績:売上収益3,300億円、売上収益比率20% ※ 参照シナリオ:当社グループのVISION 2030 |
Rose Value®製品売上収益比率 40% |
─ |
1.5~2℃の世界
機会区分 | 事象 | インパクト算出対象 | 算出の考え方 | インパクト | |
---|---|---|---|---|---|
中期 2030年 |
長期 2050年 |
||||
移行機会 | 低炭素製品・サービスの需要増加 | GHG削減に貢献するBlue Value®製品の売上収益増加 | 非財務指標として設定。 ※ 2021年度Blue Value®製品実績:売上収益2,900億円、売上収益比率18% ※ 参照シナリオ:当社グループのVISION 2030 |
Blue Value®製品売上収益比率 40% |
Blue Value®製品売上収益比率 70% |
炭素税先取り対応 | GHG排出量削減により回避される費用 | GHG排出削減量および予想炭素価格から削減した炭素税額を算出。 ※ 2013年度のGHG排出量(Scope1, 2:615万t)を基準とする。 ※ 参照シナリオ:当社グループのVISION 2030およびカーボンニュートラル戦略、IEA WEO |
400億円 | 1,600億円 |
機会の最大化に向けて
Blue Value®/ Rose Value®製品・サービスの売上収益増加は、VISION 2030の基本戦略である「事業ポートフォリオ変革の追求」「ソリューション型ビジネスモデルの構築」「サーキュラーエコノミーの対応強化」によって推進します。気候変動対応を含む社会課題視点を全事業へ展開することで、製品・サービスによる持続可能な社会構築への貢献を拡大し、当社グループの機会獲得につなげていきます。また、GHG排出量削減は、当社グループの収益拡大に深く関連するため、公表済みのカーボンニュートラル戦略施策の実行に留まらず、さらなる検討を継続的に実施していく必要があります。
そして、上表に記載の3つの機会の獲得は当社グループの成長につながるため、VISION 2030の経営目標(非財務指標)として設定し、進捗管理を行っていきます。
■レジリエンスの向上
インパクト評価の結果から、今回挙げたリスクおよび機会の視点を全社戦略に反映する必要性を認識しています。今後はVISION 2030ならびにカーボンニュートラル戦略のローリングを行い、事業戦略や拠点戦略を含む全社戦略において、リスクの最小化およびリスクの打ち返しによる機会の最大化を目指し、当社グループのレジリエンス向上を実現する予定です。
④指標と目標
当社グループは気候関連リスク・機会の管理に用いる指標および目標を設定しています。これらをVISION 2030の非財務指標および経営目標として位置付け、進捗を管理しています。
区分 | 指標 | 目標 | 2021年度 実績 |
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---|---|---|---|---|
緩和 | Scope1,2のGHG削減 | GHG排出量削減率 (2013年度基準) |
40%(2030年度) 100%(2050年度) |
21% |
GHG削減貢献量の最大化 | Blue Value®製品売上収益比率 |
40%(2030年度) 70%(2050年度) |
18% | |
適応 | 防災減災、感染症予防への貢献 | Rose Value®製品売上収益比率 | 40%(2030年度) | 20% |
サーキュラーエコノミーに向けて マネジメントシステム>目標・実績
また、気候関連指標カテゴリーに沿った情報は次の通りです。
(1)GHG排出量 |
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(2)移行リスク | 「TCFD開示項目③戦略」に記載 |
(3)物理的リスク | 「TCFD開示項目③戦略」に記載 |
(4)気候関連の機会 | 「TCFD開示項目③戦略」に記載 |
(5)資本配備 |
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(6)インターナルカーボンプライシング(ICP) | 15,000円/t-CO2eと設定し、大型投融資においてICPを考慮したIRR(c-IRR)を判断材料として使用している。 サーキュラーエコノミーに向けて>マネジメントシステム |
(7)報酬 |
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