三井化学グループでは「人権尊重」を当社グループのマテリアリティの一つとし、「事業継続の前提となる課題」と位置付けて人権尊重に向けた取り組みを進めています。
人権の尊重
取り組み
人権デュー・ディリジェンス
三井化学グループは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則した人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築し、当社グループの企業活動がライツホルダーに与える人権への負の影響を、回避・軽減および防止することを目指しています。
人権デュー・ディリジェンスの取り組み
人権への負の影響の特定・分析・評価
三井化学グループの事業拠点がある国々には、地域の政治、経済、社会の状況を背景とした、人権に関する様々な課題があります。当社グループは、各地域における人権課題から、当社グループとして考慮すべき課題を把握するため、人権リスク※アセスメント(机上調査)を実施しています。
※ 人権リスク:
企業の人権に対する潜在的な負の影響、ライツホルダーにとってのリスクのこと。(ビジネスと人権に関する指導原則17参照)
2021年度には、社外有識者として特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会(以下、CRT日本委員会)の協力を得て、事業の状況を確認、整理したほか、従来の人権課題に加え、気候変動や廃棄物等による人権への影響も新たな視点として追加しました。こうした調査は机上で実施し、結果を基に、当社グループの事業拠点における考慮すべき人権課題と、そのライツホルダーを特定しました。
人権リスクアセスメントにおいて参考とした調査資料の例 | ||
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米国国務省のCountry Reports on Human Rights Practices、Trafficking in Persons Report等の情報、Human Rights Watch World Report、Transparency Corruption Perceptions Indexといった人権に関わるNGO等の調査資料 など | ||
人権リスクアセスメントにおいて評価した人権指標の例 | ||
児童労働、適正賃金、労働時間、職場での差別、教育、強制労働、結社の自由と団体交渉、表現の自由、先住民族の権利、人身取引、土地および移住の権利、移民労働者の権利、現代奴隷、労働安全衛生、パンデミック感受性、貧困、プライバシーの権利、セクシャルマイノリティの権利、女性と少女の権利、若年労働者の権利、気候変動への影響、森林破壊、水資源への影響、大気汚染・海洋汚染、廃棄物・有害物質の排出、天然資源の利用、生態系・生物多様性への影響、製品の安全、責任あるマーケティング、消費者の救済プロセス、責任ある納税、腐敗防止、政府との関係 など | ||
当社グループ事業における人権リスクの例 | 当社グループ事業により影響を受けるライツホルダーの例 | 留意すべき人権指標の例 |
労働者に係る人権リスク | サプライヤーが雇用する労働者、ビジネスパートナーとなる労働者、自社グループが雇用する労働者 など | 適正賃金、労働時間、職場での差別、強制労働、結社の自由と団体交渉権、移民労働者の権利、現代奴隷、労働安全衛生、パンデミック感受性、プライバシーの権利、セクシャルマイノリティの権利 など |
人権リスクアセスメントで特定した「労働者に係る人権リスク」の実態を確認すべく、まずは、当社事業の基盤である当社グループの製造現場で働く労働者に焦点を当て、2022年度より人権インパクトアセスメント(実態調査)を行っています。
2023年度の三井化学グループ人権インパクトアセスメントの実施概要
背景
2021年に、CRT日本委員会の協力を得て人権リスクアセスメント実施した。その結果、当社グループの製造現場で働く間接雇用の労働者(派遣および請負労働者)が脆弱な立場に置かれている可能性があり、特に注意を払う必要があること、事業を展開している32ヵ国のうち、人権リスクが高いとされる国が8か国あること等を確認した。
2023年度は、一般社団法人 ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(The Global Alliance for Sustainable Supply Chain 以下、ASSC)の協力を得て、その8か国のうち、事業としての優先順位や、製造拠点数、間接雇用の労働者数、調査の実施可能性等を考慮し、インドネシアとインドの製造拠点について人権インパクトアセスメントを実施した。
人権インパクトアセスメントの目的
- 人権リスクの把握
現地を訪問し、インタビューや視察を通じて、当社グループがライツホルダーに与える人権への負の影響を特定・評価(人権インパクトアセスメント)することにより、人権リスクを把握すること。 - 人権に対する顕在的な負の影響/人権リスクへの対処
本調査にて確認された事象を、三井化学グループ人権方針(人権方針内に明記された関連する方針、国際基準、企業活動を行う国または地域の法律を含む)に基づき評価し、対応を検討することにより、人権に対する顕在的な負の影響を回避・軽減し、人権リスクの防止を図ること。
実施内容
2023年10月、インドネシア、インドの製造拠点2社を訪問し、経営者・管理者インタビュー、帳票確認、工場の構内確認、派遣/協力会社インタビュー、労働者インタビュー(間接雇用の労働者を含む、各社8名)を実施した。なお、サプライヤーや地域住民への調査は、本調査の対象外。
確認の視点
人権リスクアセスメントの結果を踏まえ、脆弱な立場に置かれることが多い労働者の人権リスクを、次の視点から確認した。
- 労働条件
- 労働安全衛生
- 労働者の権利(非正規労働者を含む)
- 移民労働者の権利(国内移民を含む)
- 救済アクセスの状態
実施結果
今回のインタビューを通じて把握できる限りにおいて、間接雇用の労働者の人権侵害、人権に対する顕在的な負の影響は見受けられなかった。
人権リスクの防止
注意すべき人権リスクとして確認された事象に対しては、各会社・各派遣/協力会社にて、次のとおり対応を検討・協議・実施している。
インドネシア
- 派遣社員の募集時および雇用時において、給与額等の労働条件に関する情報を不足なく書面で提示する。
(対応済み) - 危険物が漏洩した際の対応方法や、内部通報意見箱の機能について再周知し、従業員の理解度を確認する。
(対応済み)
インド
- インド国内法で義務付けられている苦情処理委員会を設置する。
(対応済み) - 保護具の着用や避難経路図の有効性等の労働安全衛生対策の重要性について、従業員と再確認し対応する。
(対応済み) - 労使間のコミュニケーションの更なる活性化を図る。
(社内イベントの活用等、継続実施中) - 福利厚生の利用や昇進機会の獲得等、派遣/協力社員が自身の労働条件を正しく理解できる機会を設けるよう、派遣/協力会社(雇用主)に提案する。
以上
2022年度および2023年度に実施した人権インパクトアセスメントは、いずれも試験的な取り組みであり、限られた範囲・対象から得た結果ですが、確認された事象については、当社グループ全体で認識すべき人権リスクとして受け止め、その発生防止に向けた取り組みを進めていきます。具体的には、人権方針の理解浸透施策として、当社グループの経営幹部層に対する教育の拡充や、人権尊重をテーマとした派遣/協力会社とのコミュニケーション機会の創出等に取り組み、責任あるサプライチェーンの構築を目指します。
人権を取り巻く状況は常に変化することから、人権課題の見直しは継続的に実施する必要があると考えています。2024年度は、前回の人権リスクアセスメント実施以降、3年が経過したことも踏まえ、改めて当社グループが考慮すべき人権課題の特定を行います。ビジネスおよびバリューチェーンの確認と人権リスクの評価、国内外の連結グループ会社を対象としたアンケート形式によるセルフアセスメントなど、人権デュー・ディリジェンスの実効性をさらに高めていきたい考えです。
なお、人権インパクトアセスメントの実施結果についてはESG推進委員会、取締役会に報告しています。
苦情処理メカニズム(予防と是正)
当社グループでは、人権デュー・ディリジェンスを通じてライツホルダーとの対話を重ねるとともに、ライツホルダーからの懸念事項や苦情を受け付ける体制の構築を目指しています。
内部通報制度
当社グループでは直接、当社のコンプライアンス担当部門である総務・法務部、人事部または社外の法律事務所に通報(報告・相談)できる制度として、内部通報制度を設けており、人権に関する問い合わせも受け付けています。当社グループの役員、社員のみならず、当社グループの役員、社員の家族および退職者ならびに工場への派遣/協力会社やサプライヤーを含む取引先の方など、当社グループの企業活動に関係があるすべての方が利用できます。本制度を通じて通報された情報は、当社監査役に、即時または定期的に報告し、重要なものについては当社取締役に必要の都度、報告しています。なお、通報者が内部通報制度により通報したことを理由に、不利益な取り扱いを一切受けないことを、当社「内部通報管理規則」で明確に規定しており、規則への違反者には懲戒等の規定も定め厳重に運用しています。
ハラスメント相談員の設置
当社グループでは、各事業所にハラスメント相談員を複数設置し、発生した場合の公正な事実の把握、迅速な解決への対応を図っています。ハラスメント相談員は、男女それぞれの担当者がいます。対象は、社員、嘱託社員、パート・アルバイト、派遣/協力会社社員等、当社で働いている方すべて、また、顧客、取引先の社員の方等を含みます。
ステークホルダー・エンゲージメント
サプライチェーンへの取り組み
当社グループでは、三井化学グループ購買方針に基づき、「持続可能な調達」の観点から購買活動を行っています。また、当社グループの取引先には、ともに取り組んでいただきたいことを取りまとめた「三井化学グループ持続可能な調達ガイドライン」を共有し、人権尊重、公正な労働条件や労働環境、環境負荷の低減、法令および社会規範の遵守等を求めています。
その取り組み状況については、定期的に「CSR調達セルフ・アセスメント質問表」を用いて確認を行い、回答結果に基づき、フィードバックおよび改善支援を行っております。また、紛争や犯罪への関与の無い原材料の使用(紛争鉱物への取り組み)に関しても、本質問表のなかで確認を行っております。
社外プログラムへの参加
当社グループでは、様々なステークホルダーと対話を行うプログラムに積極的に参加し、人権問題が発生する文脈や、事業活動と人権との関連性について理解を深め、当社グループの人権尊重に向けた取り組みに活かしています。
2015年度以降、参加を継続しているCRT日本委員会主催のステークホルダー・エンゲージメントプログラムでは、毎年、NGO/NPO及び有識者から国内外で注目される人権課題の提起を受け、「業界毎に重要な人権課題」の特定に向け、同業他社を交えた議論を行っております。
2023年度は、ILO駐日事務所・GCNJ共催の国際人権・労働基準の尊重に向けた企業内専門人材の育成プログラムにも参加し、自社の事業活動に人権尊重の取り組みをどのように組み込み、推進していくかについて、有識者や参加企業とともに議論を行い、具体的な方策の検討を行いました。