大規模ボイラープラントでAIによる運転支援に成功
-生産DXによるプラントスタートオペレーションの効率化-
2024.12.19
日本電気株式会社
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
三井化学株式会社
株式会社オメガシミュレーション
日本電気株式会社(以下 NEC)、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下 産総研)、 三井化学株式会社(以下 三井化学)、株式会社オメガシミュレーション(以下 オメガシミュレーション)は、化学プラントなどの大規模インフラの運転を支援する「プラント運転支援AI」とシミュレータ上に再現したミラープラントを組み合わせたプラント運転支援システムを構築し、三井化学大阪工場の大規模ボイラープラントにおけるスタートアップ操作の支援に成功しました。
これにより、ボイラープラントや化学プラントのスタートアップ操作や生産量変更操作など、これまで自動化が難しかった非定常状態の運転支援や、冷温停止状態から定常運転に到達するまでの時間短縮による原料やエネルギーの削減など、運転の効率化が期待されます。
化学工場におけるボイラープラントは、工場内のすべてのプラントに、製品生産に必要な電力とスチームを供給する大規模かつ重要なインフラです。そのため、工場の定期修理が完了し次第、すみやかな運転再開が求められます。特に、運転の再開が遅れた場合、ボイラープラントの定期修理と合わせて同時に停止していた、製品を生産するプラントがスタートアップできず、各製品の生産にも影響を与えてしまいます。
定常運転しているプラントの制御と比べて、スタートアップの時のように温度や圧力が大きく変わる非定常状態の運転操作は難易度が高く、制御システムの開発も困難でした。停止しているボイラープラントを早くスタートアップさせようと急激に加熱すると、プラント設備の損傷や運転員の安全が損なわれる可能性があります。そのため、ボイラーの温度と圧力を上昇させる際には決められた速度を超えないようにしながら、迅速かつ効率的に操作する必要があり、高度な技術が求められます。また、このような大規模プラントは、定期修理を除き24時間運転されていることが多く、スタートアップの機会が限られており、経験豊かな運転員の育成も課題とされています。
NECと産総研は、プラントなどの大規模なインフラの効率的な操作とその根拠を合わせて提示できるAI技術「プラント運転支援AI」を開発してきましたが、このたび新たに高速かつ高精度に制御量を計算する技術「レプリカモデル予測制御」を開発し、これらを組み合わせた制御システムの利用可能性について三井化学大阪工場の大規模ボイラープラントで検証し、当技術を利用して安全かつ効率的にスタートアップできることを確認しました。
【技術の特長】
1.化学プラントの非定常状態の運転コストを削減
本技術により、スタートアップ操作や生産量変更操作など、これまで自動制御および運転支援が困難であった非定常状態の運転において、無駄なく効率的な運転操作が可能になります。
2.安全な操作が事前に確認できる
大規模プラントの非定常状態では、その操作結果が複雑に変化するため、将来予測が難しいことも運転の難易度が高い理由です。
本技術では、オメガシミュレーションのダイナミックシミュレータを活用し、強化学習を通じて自動で大量の試行錯誤を繰り返しながら運転方法をAIが学習します。強化学習と精密なシミュレーションの組み合わせにより、さまざまな状況に対応できるようになります。
運転中は、ミラープラント(オンラインダイナミックシミュレータ)と学習済みのAIがオンラインで連携し、将来の操作内容と運転予測がリアルタイムに更新され、その予測を見ることで安全な操作かどうかの確認ができます。
3.予期せぬ変動に迅速に対応できる
プラントの運転では豪雨や原料変動などによる予期せぬ変動が生じることもあり、これらへの迅速な対応も求められます。
本技術ではさらに、シミュレーションデータとニューラルネットワークを用いてプラントの挙動をレプリカモデルとして再現し、そのレプリカモデルを用いたモデル予測制御を備えることで、予期せぬ変動に迅速に対応します。
4者は今回の実証実験で得られた成果をさらに発展させ、AIとシミュレータを用いた運転支援技術を提供することで、化学プラントの運用効率化に貢献していきます。
以上