カラーレンズメガネの色の選択が姿勢制御に影響することを確認

ー姿勢制御に影響を及ぼす色は人によって異なるー

2025.03.24

国立大学法人東北大学
株式会社 Innochi
エスエイビジョン株式会社
三井化学ファイン株式会社

【発表のポイント】

  • 環境色やユニフォームの色やサングラスのレンズの色が運動制御能力に影響を与えスポーツの成績を左右する可能性が指摘されていましたが、科学的な検証は不十分でした。
  • 透明レンズを含む26色のカラーレンズを装着して、片脚立ちやジャンプして着地する際のバランス調節能力を精密に計測した結果、レンズの色によってバランス調節機能が大きく異なることがわかりました。
  • 透明レンズに比べてバランス能力が低下したり改善する色は、個人によって異なることがわかりました。
  • 情動に変化を来す刺激として音楽の曲調によって運動調節能力が変化することは明らかにされていましたが、視覚刺激として色覚が運動調節能力に影響することが初めて立証されました。

【概要】

スポーツやリハビリテーション、健康づくりの運動において、バランス能力は非常に重要です。屋外の活動では様々な色のサングラスが使われますが、そのバランス能力への影響については、十分な科学的検証がされていませんでした。

東北大学産学連携機構未来社会健康デザイン拠点の永富 良一 教授(研究推進時:大学院医工学研究科)らの研究チームは、透明レンズを含む26色のカラーレンズを使って、片脚立ちとジャンプして着地する際のバランス調節能力を精密に計測しました。その結果、色によってバランス調節能力の指標である重心動揺面積が最適色では透明レンズより20%以上小さくなり、不適色では20%以上大きくなりが大きく異なることがわかりました。また、透明レンズに比べてバランス能力が低下する色や改善する色は、一人一人異なることも判明しました。

本研究成果は、2025年2月27日に科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

 

スポーツやリハビリテーションにとってバランス能力は非常に重要です。自分や相手のウェアの色や環境色がスポーツの成績に関連する可能性が指摘されています。もしそうであれば運動にとって大事なバランス能力に影響があっても不思議ではありません。屋外活動では様々な色のサングラスが使われます。しかしバランス能力への影響については十分な科学的検証が行われていませんでした。環境色やレンズの色が運動パフォーマンスに与える影響についての科学的根拠は不足していました。

 

東北大学産学連携機構未来社会健康デザイン拠点の永富 良一教授(研究開始当時:大学院医工学研究科)は、株式会社Innochi(大分県豊後大野市、代表取締役:灰谷孝)、エスエイビジョン株式会社(大阪府大阪市、代表取締役社長:岡部隆幸)、三井化学ファイン株式会社(東京都中央区、代表取締役社長:西山泰倫)と「メガネレンズの色覚刺激が運動機能調整能力に及ぼす効果」について2022年4月1日に4者共同研究契約を締結し研究を進めてきました。

 

2024年に発表した研究では、赤・青・黄・緑のカラーレンズの中で、好みの色が必ずしもバランス能力に有利とは限らないという研究結果を報告しました(Negyesi et al. Sci. Rep. 2024)。しかし、バランス能力に有利あるいは不利になる特定の色があるかどうかは、まだ解明されておらず、検査に用いた色も限定的でした。

 

 

 

今回の取り組み

 

研究グループには東北大学医学系研究科運動学分野大学院生 張文玉、Negyesi, Janos国立ハンガリースポーツ科学大学助教(研究開始当時:大学院医工学研究科)らが加わり、共同研究企業のエスエイビジョン株式会社から市販されている透明レンズを含む26色のカラーレンズ(フィジカルサポートカラーPSC🄬)を使用し、バランス能力を評価しました。

 

バランス能力は、開眼片脚立ち、およびジャンプ着地する際の重心調節能力について、床反力計(注1)を用いて精密に計測しました(重心動揺試験(注2))。各色のレンズで6回のテストを行い、色によってバランス能力に対する効果が異なることがわかりました。また、個人ごとにバランスが良くなる最適な色と悪くなる非適切な色が特定できることがわかりました。興味深いことに、万人に共通するバランスによい色はありませんでした。自閉症児では、カラーレンズの色が読字速度に影響を与えることが知られていましたが、健常者でバランス制御にカラーレンズが影響を与えることが、初めて明らかになりました。

 

 

 

今後の展開

 

この研究成果は、登山や高所作業などの危険な場所での歩行時に、バランスを崩しやすい色を避けるための知見を提供しています。片脚立ちだけではなく、ジャンプして着地する際にも、特定の色がバランスに対して有利または不利であることがわかりました。実験は、白い背景の実験室環境で行われましたが、結果の信頼性は高く信頼できるものと考えられます。

 

実際の環境では、視界に入る色や形は複雑で、動きや変化もあります。実生活に応用するためには、まず自分でカラーレンズの効果を試してみる必要があります。今後は個人に最適な色を見つける方法を確立し、人によって異なるカラーレンズの色がバランスに影響をするのか、その神経機構の解明を進めていきます。本研究は東北大学産学連携機構において企業などとの共創活動から非医療領域のヘルスケアイノベーションを推進する未来社会健康デザイン拠点で取り組む「情動と運動制御」研究の一環としても行われています。

図1   最適な色上位3色(best)と不適な色上位3色(worst)のカラーレンズを装着したときの片脚立ち重心動揺試験時の重心動揺面積(ENV AREA cm2)の違い(灰色:立位片脚立ち、黒色:前方ジャンプ片脚着地後).透明レンズ(transparent)装着は比較対照。 図1 最適な色上位3色(best)と不適な色上位3色(worst)のカラーレンズを装着したときの片脚立ち重心動揺試験時の重心動揺面積(ENV AREA cm2)の違い(灰色:立位片脚立ち、黒色:前方ジャンプ片脚着地後).透明レンズ(transparent)装着は比較対照。
図2. カラーレンズの眼鏡をかけると色によってバランス能力が影響を及ぼす。しかも人によって影響を与える色が異なる 図2. カラーレンズの眼鏡をかけると色によってバランス能力が影響を及ぼす。しかも人によって影響を与える色が異なる

【用語説明】

注1.     床反力計

床反力計は、地面から物体や人体に作用する床反力を測定するボード状の計測装置です。内部には圧力センサーやひずみゲージが組み込まれており、人体が接触時の力を電気信号として検出します。体重やジャンプ時の踏み込みの力、歩行や走行時の推進力や制動力、横移動やバランス制御に関与する力などを評価できます。スポーツ科学分野・リハビリテーション分野などで利用されます。

 

注2.     重心動揺試験

重心動揺試験は、片脚や両足の直立姿勢での一定時間内の身体のバランス能力や安定性を評価する検査です。主に床反力計を用いて、身体の重心がどのように揺れ動くか(重心動揺)を測定します。重心動揺面積が小さい方が安定、大きい方が不安定と判定されます。

【謝辞】

本論文は『東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』により、Open Accessとなっています。

【論文情報】

【本件の問い合わせ先】

(研究に関すること)

東北大学産学連携機構 イノベーション戦略推進センター 未来社会健康デザイン拠点 特任教授 永富 良一
TEL 022-752-2191

(報道に関すること)

東北大学産学連携機構 イノベーション戦略推進センター 事務支援室
TEL 022-752-2188
株式会社Innochi 代表取締役 灰谷孝
TEL 090-3924-4413
エスエイビジョン株式会社
TEL 06-6115-8451
三井化学株式会社 コーポレートコミュニケーション部

(フィジカルサポートカラー®の取り組みに関すること)

三井化学ファイン株式会社 新事業開発部 担当:高松
TEL 070-4004-1059