プロダクトスチュワードシップ
安全な製品の提供
人の健康および環境の保護と持続可能な開発のために、ライフサイクルを考慮した化学物質と有害廃棄物の健全な管理(Sound Chemicals and Waste Management)が提唱され、ICCA(国際化学工業協会協議会)でも展開されています。三井化学グループは持続可能な発展を目指すサプライチェーンの一員として、この健全な化学品管理の視点を取り込んだ事業展開と製品開発を進めています。
製品リスク評価
三井化学は、すべての新規製品のリスク評価を行います。また、既存製品に対しても、原料・製造法の変更時、用途拡大時、法規制・基準の見直し時、新たな科学的知見が得られた場合に、繰り返しリスク評価を行っています。今後は新規製品、既存製品に関わらず、事業分野の多様化に合わせて、新しい用途、廃棄・リサイクルに対応したリスク評価も行っていきます。
※工場内および物流のリスクアセスメント・リスク管理措置については、労働衛生、安全・保安、環境保全、物流をご覧ください。
新規製品のリスク評価
新製品・新銘柄の開発時は、5つのステージごとに定めたリスク評価を、研究所、事業部、工場、RC・品質保証部、安全・環境技術部でそれぞれ分担して実施しています。原材料、製造工程で使用する触媒や添加剤、製造工程で発生する副生成物についても評価対象としています。
開発ガイドライン
この表は横にスクロールできます。
ステ ージ |
役割 | 実施事項 |
---|---|---|
Ⅰ | 製品コンセプトの仮説設定 | 安全性に関する情報収集、調査の実施 |
Ⅱ | 仮説製品コンセプトの市場機会の評価 | プロトタイプ提供時に顧客に安全性情報を提供 |
Ⅲ | 限定顧客による予備的市場開発 | 安全性情報の社内関係者への周知 安全性情報の限定顧客への提供 ↓ 製品リスクアセスメントの実施 ↓ 製品安全会議の開催※1 → 開発変更※2/中止 ↓ リスク管理措置※3の実施 許認可申請の実施 |
Ⅳ | 本格的市場開発 | |
Ⅴ | 事業化、上市 | 変更管理の実施 既存製品のリスクアセスメントの実施 |
※1リスクが十分に低いことが確認できない場合等、社内基準に抵触した場合に開催。
※2例:原料、製造法、仕様等の変更。
※3例:用途・使用条件制限、SDSに加え技術資料等での情報伝達。
既存製品のリスク評価
三井化学では、WSSD2020目標達成に貢献するため、既存製品のリスク評価を順次実施してきました。2016年度は、作業者リスク評価をコントロールバンディング手法※1により実施し、当社の全製品約2,500の中から優先度の高い製品約1,000を絞り込みました。2017年度は、絞り込んだ約1,000の製品のうち、高優先製品に対して、欧州REACH規則のリスク評価に使用されるECETOC TRA※2等の手法も活用し、各製品の想定される全ての用途でのリスクレベルを算出しました。2018年度は評価対象を低優先製品に拡大し、全製品のリスク評価を完了しました。
※1コントロールバンディング手法:
化学物質から労働者を守ることを目的として、国際労働機関(ILO)が作成した化学物質の管理手法。
※2ECETOC TRA:
ECETOC(欧州化学物質生態毒性および毒性センター)が開発したリスクアセスメントツール。
含有化学物質に対する自主的取り組み
化学物質は、人の健康や環境に対して危険性や有害性を持つ場合があります。三井化学は、体系立てて懸念物質の削減に取り組んでいます。
当社は、(1) から (7) リストの物質を「禁止物質」と定め、使用・製造・販売しないことを決めています。また、使用制限や情報開示が求められる物質について、購買・研究・製造の各段階において管理を徹底しています。特に、(8) から (16) リストの物質は、製品用途ごとに使用可否を判断します。
- 労働安全衛生法 製造等禁止物質
- 労働安全衛生法 特定化学物質障害予防規則(特化則)第一類物質
- 化学物質審査規制法 第一種特定化学物質
- 毒物及び劇物取締法 特定毒物
- オゾン層保護法 附属書A、B特定物質
- 化学兵器禁止法 特定物質(化学兵器禁止条約上の表1剤)
- 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)附属書A、B、C物質
- (米国) 有害物質規制法(TSCA) 使用禁止または制限物質(第6 条)
- (EU) ELV指令
- (EU) RoHS指令 AnnexⅡ
- (EU) POPs規則 AnnexⅠ
- (EU) REACH規則 Candidate List of SVHC for Authorisation(認可対象候補物質)およびAnnex XIV(認可対象物質)
- (EU) REACH規則 Annex XVII(制限対象物質)
- (EU) 医療機器規則(MDR)Annex I 10.4 化学物質
- Global Automotive Declarable Substance List(GADSL)
- IEC 62474 DB Declarable substance groups and declarable substances
安全性評価と動物実験管理体制
化学製品の開発および化学物質管理のためには法規制等の求める安全性試験データが必要です。動物実験の実施が必要となる場合もあります。三井化学は、法規制および厚労省の基本指針が求める3Rの原則(Replacement:代替法の活用、Reduction:使用数の削減、Refinement:苦痛の軽減)を宣言した動物実験方針および動物実験施設において機関内規程を定めています。機関内規程に基づき、動物実験委員会が、外部委託試験を含む全ての動物実験に対して3Rの観点で事前審査を実施しています。2019年度、ヒューマンサイエンス振興財団によって厚労省の基本指針に適合していることが認証されました。
安全性評価体制

新たな評価技術の獲得
リスク評価の世界的な潮流として、既存データ、“in silico”(化学物質の構造から有害性を予測する技術)および“in vitro”(実験動物を用いない代替試験法)の試験データを統合して評価し、避けられない場合に限って最終手段として動物実験を実施するリスク評価手法(IATA)が普及しています。この考え方は、OECDの刺激性/腐食性、感作性等のテストガイドライン等に取り入れられ、各国の規制にも導入されるようになりました。三井化学は、このような先進的な技術を積極的に導入しています。
2018年度では、動物実験代替法の技術確立貢献への取り組みとして、OECD QSAR※1 ツールボックス(in silicoのひとつ)での刺激性予測の精度を高め、より客観的な評価が行える評価フローの開発を行い、欧州毒性学会で発表し、科学雑誌にも掲載されました※2。また、当社も参加したプロジェクトで開発されたADRA法※3 が2019年にOECDテストガイドラインに収載されました。
※1QSAR:Quantitative Structure-Activity Relationships。定量的構造活性相関。
※3ADRA:Amino acid Derivative Reactivity Assay。感作性の有害性転帰経路(AOP)キーイベント第1階層を評価する試験法。