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プロダクトスチュワードシップ

安全な製品の提供

人の健康および環境の保護と持続可能な開発のために、ライフサイクルを考慮した化学物質と廃棄物の健全な管理(Sound Chemicals and Waste Management)が提唱され、ICCA(国際化学工業協会協議会)でも展開されています。また、2030年に向けた国際的な化学物質管理のための枠組み(GFC: Global Framework on Chemicals)では、産業界を含むマルチステークホルダーによる自主的な化学物質管理の推進が求められています。

三井化学グループは持続可能な発展を目指すサプライチェーンの一員として、この健全かつ自主的な化学品管理の視点を取り込んだ事業展開と製品開発を進めています。

製品リスク評価

三井化学は、当社のすべての製品に関し、当社製品を取扱う作業者、最終用途を想定した一般消費者、および環境に対するリスク評価を行っています。

新規製品については開発時に、既存製品については、①原料・製造法の変更時、②用途拡大時、③法規制・基準の見直し時、④新たな科学的知見が得られた場合に、リスクの再評価を行っています。

作業者に対するリスク評価は、コントロールバンディング手法※1による定性的な評価で優先度をつけ、欧州REACH規則のリスク評価に使用されるECETOC TRA※2等の手法を活用した定量的な評価まで進めています。取り扱い条件によっては高リスクとなることが懸念される製品については、顧客での適正なリスク管理につなげるべくリスクコミュニケーションを進めるとともに、組成の見直しによるリスク低減や代替品の開発についても検討しています。

今後はサーキュラーエコノミーへの移行を踏まえリサイクルに対応したリスク評価も行っていきます。

※1 コントロールバンディング手法:
化学物質から労働者を守ることを目的として、国際労働機関(ILO)が作成した化学物質の管理手法。

※2 ECETOC TRA:
ECETOC(欧州化学物質生態毒性および毒性センター)が開発したリスクアセスメントツール。

*工場内および物流のリスクアセスメント・リスク管理措置については、労働衛生安全・保安環境保全物流をご覧ください。

製品・銘柄の開発時に、5つのステージごとに定めたリスク評価を、研究所、事業部、工場、RC・品質保証部、安全・環境技術部でそれぞれ分担して実施します。原材料、製造工程で使用する触媒や添加剤、製造工程で発生する副生成物についても評価対象としています。

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ステージ役割実施事項
製品コンセプトの仮説設定安全性に関する情報収集、調査の実施
仮説製品コンセプトの市場機会の評価プロトタイプ提供時に顧客に安全性情報を提供
限定顧客による予備的市場開発

安全性情報の社内関係者への周知

安全性情報の限定顧客への提供

製品リスク評価の実施

製品安全会議の開催※1 → 開発変更※2/中止

リスク管理措置※3の実施
許認可申請の実施

本格的市場開発
事業化、上市変更管理の実施
既存製品のリスク評価の実施

※1 リスクが十分に低いことが確認できない場合等、社内開催基準に従う。

※2 例:原料、製造法、仕様等の変更。

※3 例:用途・使用条件制限、SDSに加え技術資料等での情報伝達。

リスク評価とBlue Value®

三井化学は、製品がライフサイクルの各ステージでどのような環境負荷低減に寄与しているかを、プロダクトスチュワードシップの視点で「見える化」するBlue Value®を設計しました。Blue Value®では対象製品の申請・認定プロセスにおいて、ライフサイクルアセスメント(LCA)※1に基づく環境影響の評価手法の一つであるLIME2※2をスクリーニング評価用に簡易化した手法を用い、原料から廃棄までの各ライフサイクルステージを通したLCAを行います。Blue Value®の認定項目には「CO2を減らす」「資源を守る」「自然と共生する」があり、影響領域は「地球温暖化」「オゾン層破壊」「資源消費」「有害化学物質」「生態毒性」「酸性化」などをカバーしています。Blue Value®の申請・認定プロセスを通じ、これまでに既存製品の75%を評価しました。

※1 ライフサイクルアセスメント(LCA):

製品の原料、製造、加工、使用、廃棄などすべての段階を通して、環境影響を定量的に評価する手法。

※2 LIME2(Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling):

日本の環境条件を基礎とした被害算定型ライフサイクル環境影響評価手法。

含有化学物質に対する自主的取り組み

化学物質は、人の健康や環境に対して危険性や有害性を持つ場合があります。三井化学は、体系立てて懸念物質の削減に取り組んでいます。

当社は、(1) から (7) リストの物質を「禁止物質」と定め、使用・製造・販売しないことを決めています。また、使用制限や情報開示が求められる物質について、購買・研究・製造の各段階において管理を徹底しています。特に、(8) から (17) リストの物質は、製品用途ごとに使用可否を判断します。

  1. 労働安全衛生法  製造等禁止物質
  2. 労働安全衛生法  特定化学物質障害予防規則(特化則)第一類物質
  3. 化学物質審査規制法  第一種特定化学物質
  4. 毒物及び劇物取締法  特定毒物
  5. オゾン層保護法  附属書A、B特定物質
  6. 化学兵器禁止法  特定物質(化学兵器禁止条約上の表1剤)
  7. 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)附属書A、B、C物質
  8. (米国) 有害物質規制法(TSCA)使用禁止または制限物質(第6条)
  9. (EU) ELV指令
  10. (EU) RoHS指令 AnnexⅡ
  11. (EU) POPs規則 AnnexⅠ
  12. (EU) REACH規則 Candidate List of SVHC for Authorisation(認可対象候補物質)およびAnnex XIV(認可対象物質)
  13. (EU) REACH規則 Annex XVII(制限対象物質)
  14. (EU) 医療機器規則(MDR)Annex I 10.4 化学物質
  15. (中国)電器電子製品有害物質使用制限管理弁法(中国RoHS) 有害物質
  16. Global Automotive Declarable Substance List(GADSL)
  17. IEC 62474 DB Declarable substance groups and declarable substances

当社グループは特定の懸念物質を代替によって削減する方針を定めています。代替の取り組み事例は下表の通りです。

対象懸念物質例方針
各種製品製造時の反応溶媒

トルエン、キシレン

DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)

有害性の低い物質に代替
特定の製品群の添加剤ジエタノールアミンジエタノールアミンの含有が懸念される添加剤を長鎖アルキルジエタノールアミン等に代替
ウレタン硬化剤MOCA(4,4′-メチレンビス(2-クロロアニリン))有害性の低い物質に代替

2024年度からは、当社としての禁止物質の範囲を新たに拡大しています。具体的には、①日本および国際条約での禁止物質の候補物質、②欧州の認可対象物質や米国TSCAでの禁止物質など日本以外ですでに原則使用禁止となっている物質を、当社の禁止物質として追加しています。新たな禁止物質を使用している製品については、禁止物質の代替、閉鎖系や中間体等での使用における管理強化等、対応計画の目標作成に着手しています。

安全性評価と動物実験管理体制

化学製品の開発および化学品管理において、法規制等の求める安全性や機能性の確認に、やむを得ず動物実験が必要となる場合があります。三井化学では、「動物の愛護及び管理に関する法律」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」、「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」といった各種法令に準拠した機関内規程を定めています。これに基づき、当社が実施する動物実験に対して、3Rの原則(Replacement:代替法の活用、Reduction:使用数の削減、Refinement:苦痛の軽減)を基本とする動物福祉の観点のみならず、倫理的並びに科学的な観点からも動物実験委員会が審査を行い、適正な動物実験の実施に努めています。さらに、自己点検を毎年実施し、各種法令や機関内規程等に適合していることを確認しています。これらの取り組みについて一般財団法人日本医薬情報センターによる第三者認証を2020年3月から取得しています(2023年3月に認定を更新)。

※ ヒューマンサイエンス振興財団解散にともない2021年4月より一般財団法人日本医薬情報センターに承継。

新たな評価技術の獲得

リスク評価の世界的な潮流として、既存データ、“in silico”(化学物質の構造から有害性を予測する技術)、“in chemico”(化学反応を評価する代替試験法)および“in vitro”(実験動物ではなく、培養した細胞等を用いる代替試験法)の試験データを統合して評価し、避けられない場合に限って最終手段として動物実験を実施するリスク評価手法(IATA)が普及しています。この考え方は、OECDのテストガイドライン等に取り入れられ、各国の規制にも導入されるようになりました。三井化学は、これらの評価手法を積極的に導入しており、当社も参加したプロジェクトで開発されたADRA法※1は2019年にOECDテストガイドラインに収載されました。引き続き、その後のバリデーションにも参加しております。また、一般社団法人 日本化学工業協会Long-range Research InitiativeやJaCVAM※2の活動にも参画し、動物実験代替法の開発、普及に貢献しています。

※1 ADRA法:

Amino acid Derivative Reactivity Assay。皮膚感作性試験のin chemico代替法。

※2 JaCVAM:

日本動物実験代替法評価センター。

安全性評価体制